日本のすがた・かたち

2015年10月11日
ノーベル賞と寺子屋

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日本人のノーベル賞受賞が話題になっています。

海外でも、日本人が多く受賞できるのは何故かと不思議がられています。

確かに人口比率からいえば日本人受賞は高い比率となります。

 

私は、この原点は江戸時代にあると見ています。

江戸幕府は幕藩体制により、全国を約270の藩を置き、長く外国との接触を避けた鎖国令を布きました。このため各藩は文武両道を奨励し、藩の経営のために新たな教育のシステムを開発しました。これが後に世界に類のない今日の日本のものづくり文化を作り上げる源泉となったと思います。

木造建築を造るところに身を置き、三百年ほど前の建築や古い資料などを見ていると、工事に携わった人たちの共有した情報の質と量に驚かされます。幕府ばかりか各藩の指揮官である普請奉行や作事奉行は勿論ですが、棟梁から職人まで高い識字率を保持していたということです。

各藩が奨励した学問の基本は、「読み書きソロバン」というものでした。つまり寺子屋に象徴される教育システムが広く発達していたため、士農工商の子弟の誰でもが学ぶことができる環境が整えられていました。それを現在立証できるのが、日本語という多重で複雑な構造の言語です。

 

大陸に暮らしてきた民族は戦いにより興廃を重ね、伝統文化はその都度継承されることなく絶えてきました。中国など戦後作られた国は70年の伝統しかなく、イギリスは四百数十年、アメリカは二百年余です。

民族が変わり、思想が変わる度に継承されてきたものは失われてきたのが人類の歴史ですが、その最たるものが言語です。言語が変わることは祖国を失うことと同義です。

 

約三万年の昔から日本人は他民族に隷属することなく、伝統を創り、子孫のために継承してきました。日本は諸外国と伝統の厚みが違うのです。漢字、平仮名、カタカナ、変体仮名、混り字、新作語、英語混語などを操り表現する日本人は稀有な存在といっても過言ではありません。

 

c976ae2864af524668117359918cafee[1].jpgものごとを創造するとき、頭の中に様々な知識や経験、知験、教養が無ければ、発想やひらめきが起きても逃げてしまいます。それを支える基本は言語と探究心です。

言葉でものごとを考える言語は思考の泉で、探究心は智慧と達成するための精神力です。探究心は伝統から抽出されていると思われ、先人の伝えてきた統(もと)となる叡智ではないかと考えられます。

伝統は強靭な精神力を生みます。精神力は持続性を高めます。あくなき探究心を鼓舞します。先人が伝えてきた精神性がノーベル賞に輝く独創性を生んでいるのだと思います。強制される労働ではなく、事に仕える「仕事」をしている日本人はこの先もノーベル賞を受賞して行くのではないかと思います。

 

木の建築を見れば分かります。私たちは先人の生きた証によって生きています。

伝統に生きるものは伝統を育て創りながら暮らしています。

 画像: 「集義堂」 寛政6年に 設立された町人の子供達の学校(寺子屋)

    ( 江戸時代 「人づくり風土記」)

                                                                                         


2015年10月11日