日本のすがた・かたち
「何か秘伝のようなものはあるのですか?」
「ウ~ン、…秘伝ねぇ~…」
「秘伝でなければ何か良い手順というか、手法というか、技法というか…」
「ウ~ン、技法ねぇ、手順ねぇ~」
「専門家として使われている方法論のようなものでもあれば、教えて欲しいのですが」
「方法ねぇ~。方法論といってもねぇ~」
「何かあるから他の人に考えられないような形ができると思うのですが」
「ウ~ン、同じように考える人もいると思うよ」
「でもこれはオリジナルだと思いますし、他の人はデザインできないと思いますが」
「デザインねぇ~。オリジナルねぇ~、それはどうかな」
「どのように考えればこのような設計が可能になるのでしょうか」
「どうすれば? …ウ~ン考えたことないなぁ」
「でも考え出されているわけですから」
「出されるねぇ~、その時がくるとスーっと無理なく出てくるからなぁ~」
「そのスーっと出てくる秘訣を教えて頂きたいのですが」
「秘訣ねぇ~。ヒケツはないなぁ~。在るとすればオケツかな」
「済みません、真面目にお願いします!」
「真面目も不真面目もないんだよなぁ。だって出てくるんだから…」
「建築の設計は非常に複雑な作業だと思いますが」
「そうだと思うよ。森羅万象に通じていなければならないっていうからな」
「それがスーっと簡単に出てくるのでしょうか」
「スムースに出るんだよなぁ~、一気にドッと!」
「何だか頭が混乱してきました」
「オレも混乱してきたよ」
「私はその設計の極意のようなものを知りたいだけなのですが」
「極意ねぇ~。そんな大層なものはないと思うよ」
「でも数多くの設計をされていますし、何かがなければ無理かと思いますが」
「何かがなくても設計はできるかもしれないよ」
「……こんなに複雑なことなのに…」
「複雑なことを複雑に考える奴には無理かもしれないが…」
「複雑なことを単純に考えるということですか」
「そうすれば核心部分が残り、見えてくるからな」
「その核心って何でしょうか」
「それは設計するものが自分自身で見つけるものだな」
「私にも見つけられるでしょうか?」
「設計をやっているのだから、すでに眼の前にあるはずだよ」
「…よく意味が分かりませんが」
「分からないことが秘訣で、秘伝というものかもしれないよ」
「なぜそのようにいえるのでしょうか」
「君は建築のことばかりで、生身の人間のことを考えていないようだね」
「……」
「今、ここに生きて息をしているひとをよく見て、識るといいよ」
「今、目の前に生きているひとのこと、をですか…」
「じゃ、一杯呑みに行こうか」
写真 四国大洲市「臥龍山荘」の石垣(石垣に石臼が使われている、斬新なデザインといえる)