日本のすがた・かたち
今年もあと僅かで、年が暮れます。
一年を振り返ると、刻々と変化してきた日々を思い起こします。
この冬も親しかった人との別れが多く、改めて人間の一生に思いを致しました。
老少不定は世の常で、老いも若きも明日は知れません。生者必滅、会者定離の理に異を唱えることはできません。
かの一休さんは、正月を迎えることを次の狂歌に託しています。
“正月は冥土の旅の一里塚 めでたくもありめでたくもなし〟
正月はあの世に往く旅の一里塚で、めでたいばかりではないぞ、だから今現在を精一杯生きよ、と諭し、人間は生まれてからの毎日が死に近づいているのだと教えています。
来年は建築の設計を生業としてきて40年を迎えます。
何か成果のようなものがあるのか、と自らに問えば、「……」です。
ただひたすら鉛筆を舐めながら、図面に向き合ってきたことは確かですが、特別その成果というものは見当りません。多分、鉛筆をおく日になってもそれはないように思います。
数百の建築を設計してきていますが、今では施主の顔も思い出せず、ただその建物の屋根小屋の木組みは鮮明に覚えていたり、当時描いたスケッチの鉛筆の濃淡が妙に脳裏に焼き付いていたりしています。
その日のその時をただひたすらに生きる。ただひたすらに眼前の雑事をこなしてゆく。これが人生の成果なのかもしれません。
年末年始は窯焚きが行われています。春の茶会に使う茶道具を焼いています。
今年もまた淡い恋心を火にゆだねて暮れて行きます。
もうすぐ除夜の鐘。良いお年をお迎え下さい。
先年、辛かった年の瀬に除夜の鐘を聴きながら詠んだ句
“有難やただ有難や除夜の鐘”