日本のすがた・かたち
2020年5月、フェイスブックは数万人に及ぶ従業員の在宅勤務を認め、世界のどこでも好きな場所を「自宅」に設定できると発表しました。
また、7月下旬にはグーグルが、2021年夏まで従業員の在宅を認めると発表し、その対象となるのは、全世界で実に20万人ほどになるといいます。
このような方針を打ち出さざるを得なくなったのは、新型コロナの爆発的感染の影響で、世界規模のテクノロジー企業に限った話ではなく、我々の仕事の有り様もこの二年で激変しました。私たちは、ウイルスが人間の生活を激変させている様を、嫌でも見る日々の中にいます。
仕事は会社で所定の時間に行い、教育は学校で行い、診療は病院で行い、会議は人が集まって行い、契約書には人が押印を行い、飲み会は皆でワイワイと…。
今、これらは過去のものとなり、コロナ禍の破壊力は徹底した職場至上主義の文化さえも有無をいわさず再考させ、先人が積み重ねてきた労働文化を根底から覆した感があります。
孤独を好む私は、建築設計の仕事の魅力は、「いつでも、どこでも、ひとりでも」という作業環境が心地よく、ポスト・コロナの時代になってもさほど影響を受けないのでは、と思っていましたが、コロナ禍に牽引されたこれからの建築労働環境は激変の足音を響かせるようになりました。建設価格の高騰です。
元来、建築物は現場一品製作で、完成までには大勢の人や時間、物や資金を要し、しかも人が建築現場に集まって造り、建てるという作業です。
そこで戦後から研究され現代の主流となってきたのがプレハブ化建築です。予め工場で組み立てられるように作っておき、現場での施工時間を短縮させるというものです。
現代建築の殆どがこのプレハブ工法で造られているといっても過言ではありません。しかもAI導入により、安全で経済的な建築が大量に供給できる時代となりました。
それで建設価格が下がったのか。
否です。
人類は産業革命以来人力を機械化することで得たものといえば、金と時間ですが、建築は人力から頭脳力に変われば変わるほど、永い時間に耐えるものを失い、大量の廃棄物を排出してきました。環境を含めたトータルで見れば建設価格は際限もなく上がって来た、それが目に見えてきたのが現代というわけです。
その現代という歴史の中にあって、私はというと、独り遊びの真っ最中です。
このところ茶の湯の道具の「茶杓」造りに勤しんでいます。
先日、仕事で出向いた長野県木曽町の柿板葺き会社で、箱根・強羅の茶室「山月庵」改修工事の屋根材の端材を頂き、それで茶杓を削り始めました。
(身近にある土や木、石を得て人力で造った建築が何百年ももっているのに…)
(さて、これは何時の茶事に使おうか。これは誰に進呈しようか。)などと、思いを巡らせながら、時の移ろいも気にせず、至福の時を得ています。
(そうだ! 抹茶はコロナの特効薬だ! さあ、これで一服点てよう…)
写真:銘「翁」自作
箱根 茶室「山月庵」御用材椹ニテ造ル