日本のすがた・かたち
茶事の床かけものは横物の「天地」でした。
客との問答には書かれた太田洞水老師の言葉を伝えました。
『凡そ地球上の生きものは、天地の間の地表近くで暮らしています。そして人間は毎日の地上の出来事によって喜怒哀楽を生じさせている。そのほとんどは苦しみです。
ですが時折、私たちは天の果てまで繋がって生きていることを思い起こすことです。目に見えなくとも天地の間に生かされているのです。吸っている空気がそうです。太陽や月の恵みです。雨風の恵みです。道に迷ったら天地の間に生きていることを思い起こすことです…』
追善の意を込めた問答でした。
茶事での掛ものは第一の道具。この掛軸をかけることが茶事の精神の要となります。
問答で、今は亡き老師との交流の日々を思い、その折の様々な情景が思い起こされました。
人間はほんの少しの思い出によって、この世に生かされている有難さを感受することがあります。それは目に見えない心の内側のものですが、明日を生きる大きな力になるものです。
ここにいう「天地」は禅語ですが、私にとっては30年を貫くオアシスのような、珠玉のような言葉となっています。
この日の茶事の面白さは一入でした。半月経った今でもこの言葉の余韻に浸っています。
茶事より面白いものはなし。
そんな面倒くさいものがよくできますね、といわれても、天地の間(はざま)に生きている時間の尊さを思い起こさせてくれる二刻(ふたとき)のセレモニーは、他の遊びに代えがたいものです。
先人のいう“面白きこと“を堪能し、茶の湯の深遠さを垣間見た晩秋の4時間でした。