日本のすがた・かたち

2020年11月1日
「はがゆい唇」

この二カ月は複数のプロジェクトに翻弄されていました。

コロナ禍の最中、巣籠もり状態で取り組んでいましたが、今月に入り漸く全容が俯瞰できる状況を迎えました。

 

私の設計手法は至って簡単で、依頼を受けてから朧げに建築の概要がつかめ、設計を進めながら完成形が脳裏に定着するまで想像を繰り返し、完成のすがた・かたちを創ることから始まります。

具体的な設計の仕事は、自分の中で完成したものを、最初の構想時に還り具体的な図面化を図って行くというものです。

 

設計しながら完成形を定めて行くという常識的手順ではなく、始めに完成した姿を創作し、それに向かって設計の実務をするといういわば自己流のやり方です。

勿論、途中で依頼主の要望や関連法規による変更などもありますが、この創作法は私に定着してから約三十年となります。

 

三十年前、七つのプロジェクトを同時に進行させたことがあります。

今にして思えば、どの様にして設計監理をしていたのか不思議な気がしますが、8人のスタッフと残業、徹夜の繰り返しの日々が三ヶ月ほど続いたのを覚えています。若かったための成果だったように思います。

 

現在に至っては、体力と視力は衰え、頭脳は怠けがち、気力は歳なりで、高橋真梨子の「はがゆい唇」を唄いながら設計の歯痒さを噛みしめていました。

それが11月を迎え、シャンソンの「さらば銀巴里」のテーマソングに戻りました。

 

このところ、幾つもの建築の完成したすがたとかたちがシャンソンと共に浮かんでは消え、消えてはまた浮かび、私の生きる縁(よすが)となっています。

 

建築の設計を始めて半世紀、この苦しみと喜びの狭間で生きることは命ある限り止められそうにありません。

幸い設計に勤しむメンバーには三十代から五十代がいます。

次世代の後進建築家たちとの真剣勝負は、老境を迎えている私にはとても刺激的です。

先賢が教えている人間の食欲、睡眠欲、性欲、物欲、名誉欲も何時しか関心が薄れ、この頃は食欲、睡眠欲、想像欲だけになって来たように思います。

 

想像することの楽しさは、誰も想像できないものかもしれません。

 

〽 聞いてちょうだいアタシの夢を ブラを外して耳つけて

 

写真:iPhone12  タロ作

 

 


2020年11月1日