日本のすがた・かたち

2011年6月29日
コンクリートから放射能

HP-0629.jpg建築工事に使用されるコンクリートは、セメントと骨材(砂利など)に水を入れて作られます。
鉄筋という鉄の細い棒を組んだところを囲い、そこにコンクリートを流し込んで固めて造ったものを、鉄筋コンクリート造といいます。
木造住宅の基礎などにも多用され、日本では木材とともに我が国でもっとも使われている建設材料です。
福島原発事故により、放射能に汚染されているコンクリートが問題になっています。コンクリートの原料のセメントや骨材に、「下水汚泥」が使われていることが原因です。
福島県が先ごろ、汚泥焼却後に生成され、セメントなどに再利用される溶融スラグから1キログラム当たり最大44万ベクレル超の高濃度セシウムを検出したと発表しました。東京や茨城など各都県でも同様の発表が相次いでいます。
これは大問題になります。
私が設計した建物にこのコンクリートが使用される可能性もでてきました。
なぜこれが大問題に発展するかというと、これからこの汚染されたコンクリートで建てられる建物そのものから放射能が出ることになるからです。
1992年に台湾で発覚したマンションの鉄筋にコバルトが誤って混入した問題では、1500世帯が長期間被ばくし、ガンなどの健康被害が多数確認されました。
知らず、毎日生活している場所で被ばくしていることになります。
子どもや幼児の健康には甚大な悪影響を及ぼすことになります。いくら下水汚泥の処理に建設資材が有効であるとはいえ、あくまでもそれは生きものにとって無害であることが前提です。
報道によると、震災から間もない3月下旬、セメント業界幹部は、経済産業省幹部に内々に呼び出され、下水汚泥を含む福島県のリサイクル用廃棄物が、放射能に汚染された可能性を明かされたといいます。
 同省と同じく早い段階で下水汚泥の汚染問題を認識していた国土交通省が、各自治体に「汚泥の汚染が懸念される場合、連絡を求める」という旨の事務連絡を出したのは4月28日です。
 
同省担当者は取材に対し、「事務連絡が早いか遅いかは主観的な問題だ」とする一方、「下水道行政の実施主体は自治体。福島県のようにデータがない場合、国は動きようがない。福島県は測定をもっと早くやるべきだった」と返答したとのことです。
 
首都圏の自治体幹部は「国の対応が遅過ぎる。判断基準が示されない以上、地方はなにもできない。国の福島県への指針を待って、測定値公表に踏み切った自治体もある」と反発し、中央と地方が責任をなすりつけ合うなか、“被害者”であるセメント業者は、「国は下水汚泥のリサイクルを推進しておきながら、無責任に過ぎる」と憤っているようです。
こうしている間にも、下水汚泥の焼却灰は増え続けています。
ストック量が増大し、その処理がまた問題になっています。
なぜこのようなことが起こるのだろう、と考えざるを得ません。
食べ物と同じで、次代に禍根を残すことになるのは困ります。
コンクリートの中で暮らす生活様式への警告のような気もしないではありません。
近い内に、そして永く、この汚染建築資材は大きな社会問題となるはずです。
今は、コンクリートの汚染度を計測し、使用しないようにするだけの対策です。
何か、自然の理から遠ざかるほど、生きものは生き難くなるように思える昨今です。
                                                             (写真 汚染前のコンクリートを流しいれる作業風景)                                                                                          


2011年6月29日