日本のすがた・かたち

2011年5月19日
山月庵

HP-0519.png箱根なる山にかかれる月清し
山居のすがた照らしまどかに
                        
                                       
明後日に茶室の見学会を行います。
第9回目となるこの催しは、茶室を造営した人たちとの触れ合いの場としています。
勿論、茶の湯の舞台として、我が国の建築文化の結晶したものとして拝見し、学んでいますが、私はその説明の中心に造営した人物を据えています。
茶室は茶事を行うための一連の施設のことをさしますが、その茶室は、誰がそれを造営したかによって大きく異なります。
茶室は、造営主の茶の湯観というか人生観が露わになっている場であり、また、どのような茶事をするつもりで建てたのか、が分かる建造物といえます。
造営主は、客に誰を招き、どのようなもてなしをしたいのかを考えます。
また、茶室で展開されるであろう、人と人との様々な出会いと別れに思いを馳せます。
その4時間は、亭主である我と、客である相手と、ともに食事をし、酒を酌み交わし、美術工芸品を愛で、茶を喫む。ただそれだけのことです。
それだけのことに、何ヶ月も前から準備をはじめ、一瞬にして終わる儀礼と儀式に邁進して行くことになります。茶事への一連の行動は、縁ある者たちの、生感あふれる交会行動といえるものです。
その4時間を演じるステージが茶室です。
造営主は茶室のすがたかたちをしているはずです。
そこに観るものが感動をおぼえることがあり、また、そうでもないこともありますが…。
山月庵(さんげつあん)の造営主は、我が国の建築史上に、その名を遺す茶室を造りました。
本意は、日本の文化の最も優れたところを世界に人々に知らせたい、との願いから、山月庵に格調高い茶の湯のすがたを顕わしたようです。また、人間の品性を高めるには、美しいものに触れるしかないとして、露地の草木から本席の木材一本まで、その想いを現わしたようです。
いつの世にも地球上には様々なことが起こります。
私のこの震災2カ月間は、お籠り性人見知り症候群でしたが、ようやくこの茶室の説明をすることで、そこから脱出できそうです。
三畳中板上げ台目切上座床の席は、初夏の緑の風につつまれていることでしょう。
                                                             (写真 秋の「山月庵」露地)                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                 


2011年5月19日