日本のすがた・かたち
宙に浮く如きの太き心柱
十方にそのすがた変じて
五重塔の心柱(しんばしら)は古色壮麗でした。
京都の東寺(教王護国寺)の五重塔は寺の象徴として広く知られ、総高55mの現存する日本古塔中最高の塔です。
国宝であるこの塔は天長3年(826)空海(弘法大師)の創建着手にはじまりますが、その後焼失すること4度で、現在の塔は寛永21年(1644)三代将軍徳川家光の寄進によって造られた5度目のものです。建築的な様式は「和様(わよう)」というもので、江戸初期の秀作といわれています。
何度も機会を逸してきましたが、先日、初層(1階)内部を拝見することができました。
写真や映像で見るものとは違い、圧倒的な荘厳さでした。
日本人は神に「再生」を、仏に「死」を観ている人々だと思えますが、その根源は「生者必滅」で、生きるものは必ず死ぬという想念のようです。
生物は必ず死ぬ定めにあり、それ故に生ある限られた時間をいかに過ごすかというのが人生最大のテーマになるわけです。
それが宗教を、神仏を生んでいるということになるのでしょう。
東寺の開山である空海は、釈迦の墓である5重の塔の初層に壮麗な装飾を施し、その須弥壇(しゅみだん)上に阿閦如来(あしゅくにょらい)、宝生如来(ほうしょう)、阿弥陀如来(あみだ)、不空成就如来(ふくうじょうじゅ)の金剛界四仏と八大菩薩を配しています。
須弥壇を囲む4本の四天柱の中央に塔の高さ55mを貫く心柱が建っています。
心柱は真言密教の最高仏であり、宇宙の中心である「大日如来」とされています。
地震国日本で、木造高層建築であるこれらの塔が倒壊したという記録はないようです。
塔は地震の際、大きく揺れても各層ごとの接合部で地震のエネルギーを吸収し、ヤジロベーのようにバランスするようになっています。
その中心を成す心柱は塔の中では周囲に拘束されず独立して建っています。
今でいえば12、3階にも匹敵する高層建築。世にも「不思議な木の建築」を支える中心となるものです。
この塔も戦火と落雷による焼失で、何度も遭遇している大地震には耐えています。
木造の塔は、我が国の耐震構造建築の鏡といえるものです。
先人は、繰り返し起きる大地震に対抗するのではなく、その自然の計り知れないエネルギーに沿い調和することによって、大災害を防いできたのだと思います。
そして地震災害時の復旧の早さに於いては世界に類を見ない国です。各国の災害後の歳月をみればそれが分かります。
日本には、地震国に住む先人の英知が結集されています。
心柱は地震や風圧に「和するため」に開発された先人の知恵だと思います。
我が国は地震を抱えた、一見不利なお国柄のように思われますが、いやいや、それが世界に類を見ない地震災害対策先進国を造っていることになっているのです。
その日私は、極彩色であったであろう心柱の大日如来を拝し、そこに平安時代の空海の将来した新しい仏教と、「和の心」を精神の柱としてきた日本人のすがた・かたちを観ていました。
宇宙のすがたをそこに観て、造営に携わっていたであろう工匠たちのことも。
(東寺 五重塔初層内部)