日本のすがた・かたち
天上に月影宿る世のすがた 見よとウズメは華と舞つる
鼓の音に誘われて、アメノウズメと思しき歌舞の精(松千代・熱海芸妓)が姿を現す。
姿をつつんで神鈴を振り、彩雲たなびく十方を祝す。
やがて天上からか、妙なる歌声が流れる。
「荒城の月」 歌の精(風間哉子)は滝廉太郎の旋律を歌う。
歌舞の精は、この世に美しき舞楽のあることを艶やかな舞で告げる。
共に今に在ることをよろこび、そして、これより光溢れる時がくることを知らせる。
歌舞の精は、しばし舞の美しさをみせ橋掛りより消え去る。
幕間(まくあい)
結のカミ(KNOB)と歌舞の精(初桃・熱海芸妓)はこれから始まる宴に、銅鑼を打ち、出迎える。
銅鑼の音による迎付(むかいつけ)は茶事の所作。
館内に熱海芸妓衆がうち揃い、音と共に客一同にご挨拶。
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「荒城の月」
松千代が舞う演目のひとつは3箇月前まで決まっていなかった。
或る日突然、松千代から電話が入り、「荒城の月」を舞いたいとの申し入れがあり、
歌は風間哉子に頼めないか、とのことだった。
振付の花柳あらた師匠からも「荒城の月」を舞わせたいとの要望があった。
訳は、現代の日本人が誰でもが知る名曲であること、
祭事「和の心にて候」の主旨に適うことなどだった。
滝廉太郎作曲の我が国最高傑作といわれる抒情歌。
風間哉子は「謹んで…」といって申し入れを受けた。
歌詞で歌ったのは3番のうちのひとつ。
その歌舞は何人もの人たちの感涙を誘った、と後で聞いた。
名妓の舞に和す清らで透明感のある声。
能舞台に思いがけない歌舞の華が咲いた。
松千代の衣装は白と紅、風間哉子は黒。
意図しなかった奇しき組み合わせ。
三つの日本の色は、得もいわれぬ懐かしさを思い出させてくれた。
(「能楽堂ライブメモ」より)
(2009・11・29 MOA美術館能楽堂 slapshot:星野英介)