日本のすがた・かたち
柱など主要な木材は、皮付き丸太でした。
屋根は萱ではなく大和葺きなどの板葺き。その他の構成材料は、素木、杉板、杉皮、竹、茣蓙(ゴザ)、ヨシ、柴垣などで、まるで縄文時代さながらの構成材といえるものでした。
大嘗宮の殿舎の木材の使
用量は約550㎥。
主材は長野県産の唐松皮付き丸太、静岡県産の杉皮付き丸太、大鳥居は北海道産のヤチダモ皮付き丸太、その他、奈良県、京都府等から木材を調達したといいます。
造りは皮付き材をそのまま使う「黒木造り(くろきづくり)」で、他は素木造りの木材でした。
黒木造りは神(自然)に一番近い建築、といわれるものです。
7月26日、大嘗宮地鎮祭が執り行われ、工期約3ヶ月で約30棟の木造殿舎の造営は、世界に冠たる我が国の匠の技がなせる稀有なものといえます。
施工は明治から平成の大嘗宮に携わってきた、大手ゼネコン清水建設が担当し、会社では神社仏閣の経験者を集めた全社横断のプロジェクトチームを結成し、全国の名だたる宮大工の棟梁を訪ね、北陸、関東、東北地方から腕利きの宮大工を確保。工事が最盛期を迎える8月下旬からは、毎日約120名の宮大工が現場でその腕を競ったとのことです。
工事中には数々の大型台風に遭い、苦心したと思われますが、10月末に無事完成し、天皇による大嘗祭が滞りなく行われました。
先日、一般公開に合わせ、数ヶ月で解体される幻の建築を拝見しました。
私は主として木造建築を手掛けてきたこともあり、大嘗祭の黒木造建築を拝したいと思ってきましたが、望みが叶いました。
磁石で方位を見ると、全ての殿舎は南北に1度の狂いなく軸を揃え、しかも配置や建屋の高さの比率は美しく、我が国の建築の美意識に暫し酔ってきました。
11月14~15日、新帝は「廻立殿(かいりゅうでん)」で沐浴による禊祓の儀を行い、「神の資格」を得る。そして、「悠紀殿(ゆきでん)」、「主基殿(すきでん)」に於いて、祖神天照大神と共寝共食の秘儀を行い「天皇霊」というカリスマ原理ともいうべき神格を得て蘇生された…。その秘儀が、眼の前の建物で、神々が二夜御座した(おわした)黒木造りのこの宮殿で…。
18日間の一般公開を経て、完成後1ヶ月半ほどで取り壊される殿舎は、日本人の自然観や価値観、美意識を、建築をもって伝え、儀礼・儀式を伴った永い時間の経過を知らせてくれました。そして、木の文化の中で育ち生きてきた、先祖の魂の拠り所を教えてくれました。
帰路、新幹線から陽光に浮かぶ相模の海を眺め、日本人の誇りと共に、自分はこのまま木の建築を造り続けたいと思いました。