日本のすがた・かたち
令和元年10月22日の祝日は富士山の初冠雪の日でした。
雨上がりの、皇居の松の間で行われた「即位礼正殿の儀」は、まさに日本の儀礼・儀式というものでした。
天皇はそれに先立ち、宮中三殿の賢所に祭祀されている皇祖天照大神に、即位を奉告し、午後1時から「即位礼正殿の儀」で、天皇陛下が台座にのぼって、即位を内外に宣言するおことばを述べられました。
テレビ中継でこの一連の儀式を観ていた私は、奈良時代から天皇の即位に関する重要な儀式などで用いられてきた「高御座」の帳が開けられ天皇が現れた時、言い知れぬ感動の中にいました。
まさに、日本における最高の儀礼・儀式が目の前に展開されていると思ったからです。
平成十一年五月三十日、天城湯ヶ島町(現伊豆市)で第五十回全国植樹祭が行われ、その会場のメインステージ「天城の森・お野立所」の設計監理の任に就き、全国で初めてとなる本格的な木造建築を創りました。
当日、空は蒼く澄み渡り、両陛下(現上皇・上皇后)のお立ちになる姿を正面から拝し、建築家を志して二十余年、一心に生きてきて良かったと思い、親兄姉の顔が浮かび、両陛下の植樹される姿が、涙で見えなくなったことを覚えています。
その十三年後、皇太子(現天皇陛下)による育樹祭が行われ、建築家として招かれました。行事に先立ち農水大臣はじめ大勢の関係者の前で、設計主旨の話をさせて頂きました。
自分が設計したお野立所の中で、しかも、両陛下がお立になった場所で、と、不思議な気持ちがしていました。
その後、静岡のホテルの祝賀パーティーがあり、殿下と思いがけずに会話となりました。
殿下に設計意図を尋ねられ、「良い仕事をされましたね。」と労をねぎらわれました。
私は、植樹祭の折、両陛下がお野立所に立たれ、育樹祭で殿下が施肥をされるお姿に、日本のすがた・かたちをみる思いがしましたと、伝えました。
日本文化は神道、日本仏教、皇室の大きな塊でとらえることができますが、わけても皇室は二千年余の歴史を持つ文化の精華であり、日本そのものといっても過言ではありません。
191の国・機関が参席した儀礼・儀式こそ、世界に稀なる「和の国・日本」ならではの出来事といえるようです。
私は先人と同じように、日本文化の中に生を受け、その中に育ち、その中を継承し、その中を創り、その中を次代に伝えて行く、そのために生まれてきたように思います。
古き良きものに新たなものを重ねて行く、伝統とは、常に新しい未来志向の産物に他ならないようです。
儀式は、特定の信仰、信条、宗教によって、一定の形式、ルールに基づいて人間が行う、日常生活での行為とは異なる特別な行為で、宗教的色彩の薄いものは式典とも称され区別されています。また、儀礼は、秩序づけられた行為一般をいい、文化の中で形式化された行動をさすものですが、今回催された一連の「即位の礼正殿の儀」こそ、二千年余続く日本文化の精華である、と改めて思い致しました。
両陛下がのぼられた高さ6.5メートルの「高御座(たかみくら)」と5.5メートルの「御帳台(みちょうだい)」には、我が国の伝統建築の粋が集められ、造作に就く工人たちの誇りに満ちた顔が浮かびました。
そして、私も伝統の担い手のひとりでありたいと…。
写真: 台座にのぼられた両陛下(Webより)
下 10月22日初冠雪の富士