日本のすがた・かたち

2008年10月24日
風景

hp-53.jpgまほろばの八十島清ら美しく
世に類なきひとぞすみける

日本列島の圧倒的な美しさについて『日本風景論』(志賀重昂・明治27年)が記しています。
1. 気候、海流の多変多様なこと
2. 水蒸気の多量なること
3. 火山岩の多々なること
4. 流水の浸食激烈なること
ここから日本列島の風景の美しさが生まれているといっています。
現代科学は、人間が棲むことのできる場所を広げ、地球上のどこでも可能にするような感があります。それは高地から深海、宇宙空間にまでおよび、その歩みを止めることはありません。
しかし、天地自然の理にかなった風景においては、人間の好奇心や科学の挑戦といえども、そこに科学的進歩というものは見当たりません。人間は自分たちの都合で、それを壊すことはできても創造することはできないからです。天然の風景は天地に任す他はありません。
私は、この地球上でも稀な気候風土の日本列島に棲んでいます。いつの頃からか、この地の風景の有難さを確実に次代に伝えていかなくてはならない、と思いはじめ、その証である水、緑、空といった一見、普段生活している中では気づかない、身近で大切なものに関心を持つようになりました。
昨今、地球規模で温暖化に対処しようとしていますが、CO2削減という観点ばかりではなく、日本ではこの大切な風景の意味をよく理解し、人間の手で壊さないようにしよう、と次代に伝えることが大事なような気がしています。
日本人は永い時間をかけ、知らず知らずの間に日本人特有の精神性を作り上げてきました。その基となるものは気候風土がつくり上げた美しい風景ではないかと思います。
この頃の私は、美しい風景の大切さを子供たちに伝えてゆくことが、本来のまちづくりであり、、美しい生活への基本ではないかと思うようになりました。これを伝えるのは、先に生きている大人の務めだ、と思い定めています。
『日本風景論』にいう4項目を満たす地は世界的にみても少なく、日本列島でも僅かといわれますが、その中で際立っているといわれる地が、東南の相模湾に臨む静岡県熱海です。
熱海は日本列島を弓に例えると、丁度矢をつがえる交点に位置します。北海道を頭にした龍に例えると、お腹の位置に当たります。いずれも何も妨げるものがない太平洋に向いています。
古くから温泉地として開かれたこの地には、確かにこれらの項目が当てはまります。熱海の海である網代湾は玄岳(くろたけ)火山の火口が陥没したものといわれ、良質の温泉と共にその風光明媚さは白眉といっても過言ではないようです。
昨年催した祭事「和の心にて候」は、この光溢れる相模の海を一望できる風景の中で行われました。
私は折にふれ、その光の中の清々しさを思い出します。                                                                                             
                                                                                                                                                                                      
                                                             


2008年10月24日