日本のすがた・かたち
子どもらに
遺せし秋の侘びしさは
今も大和に絶えず続きぬ
日本人の美意識に「わび、さび、ゆうげん」があるといわれています。
侘び、と文字にするとその様(さま)が浮かび上がってきますが、お詫びする詫びと同意語です。意味は、思いわずらうこと、閑居を楽しむことです。
ここにいう侘びは茶の湯や俳諧にいう、閑寂の風趣といわれるものです。のどかで寂しい様です。
日本人にはこの様を好ましく思う心情があって、これは老若男女、子どもにも備わっている特質です。
これから紅葉の美しい風景が日本全国を覆います。冷気が露を呼び、空がどこまでも高く澄む錦秋の季節が、日本人の意識を侘びの世界にいざなiいます。私は秋になると、紅葉の中に住んでいるような感じをうけ、自然の中で恵まれた暮らしをしていることを思い起こします。
この気候風土に育った私たちは、自然のなかの一部として慎ましく暮らしてきました。
けして地球環境を自分たちの手でコントロールできるというような、おこがましさや傲慢さを持つことはありませんでした。かえって子々孫々にいたる繁栄のためとはいえ、山野を削り、海を埋めることに、どこか後ろめたさを覚えてきたようです。その意識がもうひとつの詫びの言葉の根底に横ったわっていると思われます。
風土の中で季節を愛で、自然を畏れ、詫びながら暮らす……。
ここに日本人が持っている美意識が発揮されているように思います。
色とりどりの中に詫びる様を観る。心躍る中でのどかで侘びしい様を見る。鮮やかな色彩につつまれた寂しさ…。この侘びしさを次代に遺さなければなりません。
私たちは、対極にあるような感情もつつみ、それを変えようとせず、意識せず溶かしひとつにしてゆく。
侘びを身にまとう日本人に、私はおおいなる未来を感じています。