日本のすがた・かたち

2018年5月23日
仏師、飛天を彫る

 

先日、愛知県春日井市にある名刹・退休寺の本堂に飛天の彫刻を納めたとのことで、彫刻師の高畠(旧姓森田)彩乃夫婦が報告に来てくれました。
平安後期といわれる本尊の阿弥陀如来像が有名な寺ですが、その背後の壁には四体の飛天が荘厳されています。
彼女は本尊の正面左の飛天を担当したものとのことでした。
写真を見るとモデルは本人と見紛うばかりで、神秘的で肉感的で、そして色気を感じました。眼の先は本尊阿弥陀様。

仏師は、制作に関してはその持てる知識、技術、経験、そして人間性が表白される作業といわれ、どのように繕っても現在の自己の持てるものしか作品に反映されないものです。
彼女は独立してからの一年余、日々精進を重ねてきたのだとこの作品が教えていました。
この飛天は去年の夏に制作準備をしていたもので、その写真からは随分、イメージが変わったな、と思いました。
聞けば伴侶の助言が大きかったとのこと。彼も獅子頭の彫刻師であり、特に顔の表情表現には一家風を持っているので、得心がいったものでした。

天は、天空を自在に飛行するロマンそのもの。欧米では天使で「翼」を仏教国では「衣・領巾(ひれ))で飛翔します。天国へも極楽へも飛んで行ける夢の飛行体です。

私は仏の世界を荘厳するにもっとも多用される飛天は若い時分から興味があり、インド、ネパール、ブータン、中国、朝鮮など現地で実見してきました。
天上を住いとする神仏と、地上の衆生との連絡を飛天に託しと思われる説話が多く残されているのを見ると、飛天は神仏界と人間界を結ぶ重要な存在ということになります。

天使、天人、楽天、天男、天童、天衆、天女とも呼称されてきた飛天は、現代に至り、女性で顕されることが多くなり天女といわれるようになりました。
「羽衣」は能楽の第一の名曲。天皇は即位の秘儀に「天の羽衣」をまとい、皇祖神と一夜過ごすといいます。

彼女が富山の射水市から持参してくれた飛天の写真は、私の好奇心を痛く刺激しました。
ものづくりの原点は常に「我が裡にあり」です。その想念をすがた・かたちにかえるのは知識、技術、経験、人間性、そして願心です。

彼女の来訪は、暫くボンヤリしていた私の願心に火を点けてくれました。
共に精進あるのみ。

寺の檀信徒の方々は本堂の飛天を観て、精気を感じるのではないかと想像できます。
ものづくりに勤しむ若者は、この結果に励まされるものです。
彼女の将来が楽しみです。

 

 

 

写真:春日井「退休寺」飛天

下:昨年の持参の飛天習作

 

 

 

 

 

 


2018年5月23日