日本のすがた・かたち

2017年8月22日
到達点

焼物を始めてから、かれこれ40年になります。

有田などの磁器物から施釉物の楽、志野、萩、織部、焼き締め物の備前、伊賀、信楽、丹波、黒泥などを作ってきました。
作るのは基本的に自分の茶事で使う茶道具の類でした。

 

ある時から、自分の理想とする茶碗のすがた・かたちは何か、を想い巡らすようになりました。
茶事で点前をする際の濃茶、薄茶茶碗の理想形を作り、それで茶を点ててみたいと思うようになったわけです。

一口に濃茶の主茶碗といっても、炉の時期と風炉の時期とは違い、また茶事の趣向によっては変えなくてはならないこともあり、一碗といっても中々難しいところがあるものです。
しかし、自分が理想とするすがた・かたちが必ずあると、思いを秘めてきました。

 

今月の20日朝、窯から出でてきた丹波の茶碗を手にして興奮しました。
(ああ、これが自分の追い求めてきた究極の茶碗だ!)
すがた・かたちは理想的で、焼けもうつくしい…。

興奮は、周りで作業をしている仲間の人たちに悟られることのないように、何時もの沈着冷静さで装いましたが、内心は胸を熱くしていました。
40年の結晶のひとつがこの一碗にあると、到達したと思い、自分なりの「用と美」に供するひとつの到達点に至ったと、手に得て実感した瞬間でした。

頭の中で濃茶を練る作法をしてみました。

取り扱いから湯を入れ、茶筅通し、湯をこぼす、拭く、置く、抹茶を入れる、湯を入れる、練る…。
古帛紗を添えて客に呈す…。
客が茶を啜る…。(お服加減いかがですか?)

(よし!次の茶事はこれを使おう!)

焼いて頂いた陶芸家に感謝しつつ帰路につきました。

 

約50種類の自作茶道具は、私の茶事の伴侶となってきましたが、出来不出来にかかわらず、茶事遍歴40年の記憶遺産であることに違いはありません。また、これらは私の仕事の設計構想に深く関わってきた文物でもあります。

何時の日か、「三島御寮」造営計画が成ったら、これらの道具を使って頂き、茶の湯を堪能する一助になれればと…。

さあ、次なる到達点を目指して。

 

写真:(仮称)「丹波変体茶碗」 自作

 

 


2017年8月22日