日本のすがた・かたち

2017年6月18日
大望を持って

“Boys,be ambitious”(少年よ大志を抱け)。
1877年、札幌農学校(現 北海道大学農学部)の先生だったクラーク博士の言ですが、大望を、大願を持て、大きな目標を定めて生きよとせは先人の言葉です。

子どもの頃から聞いていた言葉の意味が還暦を過ぎる頃、漸くわかりました。

何がわかったかというと、若い時分に大きな目標を定めて生きれば、歳をとってからそれなりに充実した人生が送れる可能性が大だということでした。

先人はそのことを知っていて、後進にそれを伝えてきたわけです。

人間は60過ぎれば人生下り坂で、それも加速状態を迎えた下り坂です。
私はその頃まったく自覚がなく、これからが盛んな我が人生と思っていました。
肉体的には下り坂であっても、どうもこの「大志」が続けば、雄々しく暮らせることができると思えたものでした。

人生の下り坂は存外面白いもので、よくよく考えてみるとこれほど味わい深い時間はないように思い、何をしても堪能できるように感じます。

大きな志をたて、一心に取り組んでくると、やがてそれが後進に伝えられる知識や智慧に育ってきます。それこそが先人が営々として次代に伝えてきたもの、「如何に生きるべきか」の伝達です。

私の周辺では、次々と仕事を離れ、穏やかに、またはボンヤリ過ごす人が多くなりました。皆が異口同音に、やがて迎える人生の終焉を待つ話をします。寂しさが漂います。

この寂しさは、後進に伝えてやれることがないため生じ、極まるのではと私は思うようになりました。

大志や大望は実現不可能と思えることに挑戦する意識で、それがあることにより生涯が充足することができる…。どうも先人の教えるところはそのような人生の来し方ではないかと思います。

コキジイは私の異称ですが、益々大志が膨らんで痛いくらいです。

クラーク博士の言には続きがあります。
“Boys, be ambitious like this old man” (この老人のように、あなたたち若い人も野心的であれ)。

「人間はまず自分の生活をたて、周りを助け、世のため人のために尽くす」
これが人生を健やかに生きる秘訣のようです。

大志は誰でもが今日の今からでも抱くことができる天与の意識です。

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今年から建築用材になる木材の調査をしています。

北は北海道のタモ、青森のヒバ、秋田の杉、会津の桐、伊豆の杉と桧、東濃の桧、木曽の桧とネズコ、吉野の杉と桧、京都の北山杉と集積される数寄屋材料、岡山の桧、広島のケヤキ、霧島の杉、屋久島の杉などが現在はどのように生産されているかの調査です。

長く木の建築を造ってきた私は、その都度その構成する木材に行き着きます。
木も人間と同じで千差万別。適材適所に使わなければ三百年、五百年の用に供することはできません。

この近くの木材を多用することを心がけていますが、何処でも三百年、五百年生きている巨木の前の立つと、我が身の小ささに遭遇します。

常々、私もこのような大樹となりたいと思って生きてきました。

 

写真:伊豆随一、天城山中の「太郎杉」
樹齢400年、樹高48 根回り13.6 目通し6.6 今なお樹勢は旺盛(Web転載 )

 


2017年6月18日