Sのプロジェクト
「こんな虚構を実現させるのは技術ではなく欲望だ」
(「建築相聞歌」太田新之介著より)
設計に携わる者で、この言葉を聞いて何も思わない人はいないでしょう。
「うん、その通り!」と昂然たる態度でいう人もいれば、
「そうなんだけど、なかなかねえ・・・・・・」と歯切れ悪く言う人もいるでしょう。
個人的な考えを言わせていただくなら、「欲望」は建築家の才能としてなくてはならないものだと思います。
正確に言えば、この「欲望」を持ち続けられることでしょうか。
情熱よりももっと強く身体の内側から欲するもの、それなしでは生きていけないぐらいの厄介な感情。
もしかしたら、「持ち続けられる」という発想自体が矛盾するかもしれませんね。
意思とはある種無関係で、人が本能として欲するものが「欲望」なのですから。
白状しますと、自分自身に欠けているのがここなのです。
これまで様々な建築家に出会い話をする機会がありました。
そのたびに、相手と自分の熱量の差に驚き、落胆し、劣等感に苛まれてきました。
時には、「私は建築バカにはなりたくないから」「私はこうしたいけど施主の要望がこうだから」「予算がないから仕方ない」という多くの言い訳で、自分を守ってきました。
思えばここ数か月間、個人的な理由で設計の仕事から離れていましたが、寂しく思うよりほっとした気持ちが強かったのは、そんな言い訳だらけの自分に半分嫌気がさしていたからかもしれません。
今の自分はどうかと問いかけたとき、「欲望」といえるものがあるか正直分かりません。
しかし、「三島御寮計画」に改めて触れて、自分が変わりたいと切に思いました。
心の奥底にくすぶり続けている火種ができたことは確かのような気がします。
何といっても三島御寮造営は、一建築家の「とてつもない欲望」の上に成り立つ建築なのですから・・・・・・。
望月美幸(建築家・JIA会員)