新之介文庫だより
「兵ちゃんお久しぶりね。お変わりなかった?」
「姐さんご無沙汰でした」
「コロナが少し収まったから、何処かへお出かけだったの?」
「温泉のある地球の楽園・箱根へちょっと…」
「まあ、いいこと。温泉に芸者でしょう。アタシも行きたかったわ」
「タマもニャーン」
「兵ちゃん、今、椿がいっぱい咲いてるので、どう椿の都々逸でも」
「磯千代姐さんから宜しく」
「じゃ、…ん」
色がついてる椿が憎い 私ゃ艶なし白椿
「うーん、わかるなあ。姐さん、無いものねだりだね」
「だって白って色気がないでしょ」
「いや、ボクは白に色を感じるね。それも高貴な色気をね」
「アタシみたいなの?これから誰かさんに染められるって…」
「じゃボクが姐さんのお返しで、…ん」
白無垢椿が私は憎い 色が邪魔する紅椿
「色が邪魔するってのは、もう変化なしってことね」
「そうだね、だけどどちらも綺麗だね」
「日本人って椿にまつわるエピソードが多いわね」
「殆んどが切ない恋の物語だな」
「兵ちゃん、つい最近アタシのお友達の娘が電撃結婚よ」
「ほう、できちゃったとか?」
「違うのよ、もうじき婚約って時に違う人と一緒になったみたい」
「まあ、男女にはよくあることだなぁ、じゃ、…ん」
ボクというのがいるはずなのに アッというまにウエディング
「それが縁というものね。その点,芸者は身持ちがかたいわよ」
「姐さんかたかったのか?」
「姐さんは色気だけではナビかない方だと思うよ」
「そうよ、アタシはこう見えても男を見る眼があったわ」
「姐さんはボク好みだな。こんなのは、…ん」
「君となら・・・」
所帯持とうと思っていたが 恋の関所で雨宿り
「兵ちゃん意味深で素敵な都々逸ね。何か深いわけでもあるような…」
「何時も恋には関所があるね。それで燃えるんだけれど」
「アタシにゃ関所はないわ。どう?雨宿りしてみます?」
「金が目当てニャーン。歳もとってるし」
「このタマヤロ!恋に歳など関係ないんだよ!お前にゃあるけどね」
「主となら・・・」
夢の中でも逢いたいけれど 逢えば別れが追いかける
「いいなぁ。色恋は暗い夜道と同じで闇のなかで手探りだな」
「若いころ明日はあるのかって泣いたこともあったわ」
「古典にあるね」
「『去年の今夜は知らない同士今年の今夜は家の人』ってね」
「新型コロナじゃないけど、人間明日のことは分からないたとえだな」
「大晦日の除夜の鐘を聴く時の幸せ都々逸ね。粋な唄ねぇ」
「ジャジャジャーン!」
「タマ、お前何て格好ででてくるの。まさかお前まで」
「よし、タマの心境で、…ん」
過去は言うまい明日に生きる 生きるあなたの傍にいる
「きれいなセリフね。兵ちゃんアタシを誘惑してみない?」
「もうひとつ、…ん」
みんな誰かを愛しているの 思い思いの恋の路
「本当にそうね。生きてるって誰かを愛しているってことね」
「姐さん久し振りだから歩こうか」
「嬉しいわ。アタシ兵ちゃんと歩くのが一番好き!」
「リハビリにいいニャーン」
「このタマヤロ−!!」
「深川一の芸者はまだ現役だ…ニャーンってか」
「雪が舞いそうな夜だな…」