新之介文庫だより

2016年12月22日
茶事に想う

IMG_2408.JPG尾林孝雄

 三島・熱海方面に佐々木さんと共通の目的で向かうときは静岡方面から来る電車をJR草薙駅のホームで待ち合わせ、それに乗って一緒に行くことが通例でしたが、その日は通例とはなりませんでした。

その日は2016年11月28日で故人となった彼の一周忌追善供養茶事の日となったからです。

 

樵隠庵の寄付きの間に皆さんが集合しました。そこで初めて正客の緊急入院による欠席と席順の変更を知らされました。

誰もが一番頼りにしていた正客なので何とも言えぬ動揺が走りましたが、特に正客となった次客の松下さとみさんの動揺と緊張感はひしひしと感じました。

 

広間の床の間には「南無釈迦牟尼佛」と書かれた掛け軸があり、その下に出席者のひとりである女性仏師森田彩乃さんが彫刻した穏やかな立姿の木造聖観音像が合唱しておりました。

亭主をはじめ皆さんもその床の間に向かって正座し、お経を上げ故人のご冥福をお祈りしました。

これに続き出席者のノブさんから民族楽器「ディジュリドゥ」による演奏と、即興歌姫一江うたかさんによる歌が続けて披露されました。楽器のその響きは低音で、地中と地上を行き交う様なものを感じさせ、歌声は高音で祈りを思わせ天空に突き抜けて行くようでありました。佐々木さんは大いに喜ばれたことと思います。

 

懐石が始まりました。はじめは正客が変更になったことによる緊張感があったように思いましたが、亭主による茶器の命名に対する丁寧な説明、また幾つかの正客の質問になるほどと思わせる回答を、そして故人の思い出話を聞き出すなど皆さんへの心配りもあって、だんだんと和やかな雰囲気が漂いはじめました。

 

茶事も終盤に近づくにしたがいリラックス感が生まれ、そして和の心が茶会の中に生まれてきたように思いました。お茶は亭主の柴山氏ともう一人の市川氏と二人で点てていましたが、亭主の手際良さと市川氏の丁寧さに、動と静の対比の面白さを失礼ながら感じてしまいました。

 

帰りは晴れの予報が雨となりましたのでタクシーに分乗して三島駅に向かいました。佐々木さんとお会いした日が最後の日となってしまった2年ほど前ときは、この日の詰役の日野さんと私と三人で取り留めのない話をしながらぶらぶらと歩きながら駅に向かって行ったことが懐かしく思い出されました。

太田氏も仕事に復帰され、相変わらずの忙しい日々に戻りホッとしています。

茶事から半月以上過ぎましたが、佐々木廣志氏のご冥福をお祈りした印象深い茶事でした。

 

(おばやしたかお)樵隠会メンバー・建築家・静岡市在住

 

 

 

 

 

 


2016年12月22日