新之介文庫だより
お蔭様で『伊勢神宮』はご好評を頂いております。
著者と交流のない方からのご購読も多く、反響もあり次々と感想も寄せられています。
本作りの有難い喜びです。
当の私は『伊勢神宮』を原稿の時から何度か読んでいますが、寄せていただいている感想のようには参りません。当事者としては恥ずかしい限りですが皆様からの感想文で何度も頷き、感謝しているところです。
今回は美術家の松浦澄江さんからの感想です。
松浦さんは国際美術家連盟会員のアーチストで、光と影による空間デザインの分野で活躍されています。個展も数多く著者とは意気投合の仲と伺っています。
松浦澄江さん有難うございました。
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『伊勢神宮』 太田新之介著 感想 松浦澄江
山本健造の「飛騨の口碑」についてのことから伊勢神宮の成立に入っていくのが新鮮である。文字文化の現代社会だがそのことによる人間の能力の衰えも甚だしい。「口碑」に真実を見る事は「空間」を具体的に感じることを重んじる建築家太田氏の面目躍如ともいえる。
建築は箱を作るのではなく、「空間」を明らかにする行為。そしてその建築が在る事で生じる内外の空間の価値は分かる人しか分からない面もあるが、「清々しい気持ちになった」「また訪れたい」といった表現で価値を受け止めている人々も多い。
また、「口碑」とは「人間」という「箱」に伝承すべき「重要な事」を入れて終わり無く伝える、つまり「箱」が常に新しくなることで永遠が保証される。いわば人間の式年遷宮で伝えられた「中身」に、伊勢神宮の在り方との共通性を感じ信頼をおく点に共感を覚える。
また、山本健造の尊敬する福来友吉博士は念写などの問題で東大を追われるが、ルドルフ・シュタイナーと8年違いの1869年生まれ、当時は世界的に神智学が盛んであり禅の鈴木大拙も熱心な夫人とともに協会員になっているような状況である。
私は数年という短期間だがバンクーバー近郊に住み、カナダの原住民のミュージアムを何度も訪れた。
そこはUBC(ブリテッシュ・コロンビア大学)の一角にある海沿いの場所で原住民集落の在ったところである。
再現ではあるが大きな木造集会所やトーテムは否応無く私に日本の始原の建築を思わせた。そして彼らの選んだその場所、展示物の造形やその芸能が文字以上に私に多くの物を伝えてくれたと感じた。
他にも私の実体験で共感する部分が多々あったが建築の門外漢でもあり、また明治期の変化は大きく、白い玉石を青空のもとに置いた著者の肉体を信じる他に術が無い。
内容が広範なので分冊された方が読みやすいかとも思うが、多面体だけにそれぞれの人がそれぞれの体験と重ね合わせ「伊勢神宮」に少しずつ近付くこともできるのではないかと思う。 (まつうらすみえ・美術家)
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(画像 江戸時代の内宮の配置図 正殿の敷地が現在の約3分の1 その奥が荒祭宮)
(画像 下 「飛騨の口碑」の原書 山本健造書『鞍ヶ根風土記』)
他にお寄せいただいた感想文を次回に掲載させていただきます。
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