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世界には銘木と呼ばれる木材があります。
外国産の三大銘木は「チーク」、「ヨーロピアン・ウォールナット」、「キューバン・マホガニー」といわれ、これらは建築や船舶の内装材のほか、家具や調度品、美術工芸品として珍重されてきました。
我が国では縄文の昔から今日まで木造建築が造られてきたことから、銘木と呼ばれる樹種は多様で、美しく希少の木材にその称号を与えてきました。思いつく木材だけでも針葉樹の檜、杉、松、ヒバ、カヤ、槙、サワラ、栂、モミ、イチイ、ネズコなど。
広葉樹ではケヤキ、タモ、カシ、アサダ、楓、椿、エンジュ、クルミ、柿、桂、桐、クスノキ、栗、桜、シナノキ、ツゲ、トチノキ、ニレ、ブナ、楢、柳、ホオノキなどです。
その中でも超希少材といわれ、高価な銘木が柿の木の中の「黒柿」です。
黒柿とは、樹齢を重ねた柿の木の中で、土の含まれる金属や樹木の内部で進行した微生物の影響などにより、色素が蓄積され、黒く変化した状態のものを通称「黒柿」と呼んでいます。よく黒い小さな実のなる野生の老木にその黒模様が出ますが、建築用や工芸用材に適するものは極僅かで、珍重されてきた銘木中の銘木といわれてきました。
昨年、国の有形文化財に登録された、旧小松宮別邸「桜御殿」(三島市)を調査した折、宮様のご寝所の床の間の框や落掛けに使用されていたのが黒柿でした。材は極上といえるもので、すでに明治時代には銘木として名高い材だったことを知りました。
仕事柄、銘木を入手できる機会が多く、茶室建築に使用する床柱材や天井板材などもストックしてありましたが、今年のコロナ自粛のため、手持ちの材料を整理していたら、黒柿が出てきました。十分に乾燥している新潟県産の板と角棒材です。
先日、熱海を中心に活躍している棟梁に、長板に続きお願いし、茶の湯の道具に使う「結界」を作って頂き、この二、三日は仕上げに精を出し、荏油をすり込み、今日「結界」と「香合」の二つが完成しました。
さて、何時の茶事に使おうか、と思案しながら、内心出来栄えに満足している自分がいました。
「樵隠庵」の焼印を押しながら、木の文化に育まれてきた日本人を誇りに思う昼下がりでした。
さて、何という銘を付けようか。猛進している猪のようにも見えるが・・・。
写真:上 黒柿「結界」新潟県産
中 黒柿 孔雀杢「香合」
下 焼印「樵隠庵」