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静岡県にある名建築の手入れをしようと「木の建築みがき隊」が組織されたのが二十数年前のことでした。
伊豆修善寺にある新井旅館登録文化財群を皮切りに、沼津俱楽部、佐野美術館隆泉苑、三島市内の登録文化財、三島大社茶室、楽寿園文化財群、箱根神仙郷名蹟建築群などを磨き、しばらくの休みを経て再編され、先日、熱海市にある登録文化財「東山荘(とうざんそう)」(2016年度登録)を磨きました。
我が国には世界に類をみない優れた木造建築が数多くあり、世界遺産となっているものが少なくありません。木造建築は、国土の気候風土が生んだ森林国特有の文化資源といえといえますが、その築造技術は世界に類の少ないもので寺院、神社、城郭、民家、町家など、どれをとっても文化財の中核を成し、先人の生活様式のみならず精神の在り様にまで遡ることができるものです。
私はある時これらの文化財から学ぶことが多いことに気付き、名建築を師匠として設計のお手本とすることを実践してきました。温故知新の意味を教えられたのです。
漸くその内容が把握できるようになった頃、これら先人の遺徳を守るにはどうしたらいいかと考えるようになりました。それが「磨き、手入れをする」ことに繋がりました。
40代に本格的な社寺や茶室の設計監理に従事したことから、木の素材を知り、先達から木材や漆物と共に古建築の手入れの仕方の指導を受けたことが始まりでしたが、やがて磨き、手入れをすることで優れた建築の保存に役立つことに気付き、以来ご縁のある建物を皆さんと一緒に磨いてきたという訳です。
熱海「東山荘」は昭和8年に建てられた別荘建築で、正門、本館、別館から物置まで当時の最高レベルの仕事で造られ、相模湾に浮かぶ初島を望む絶景の位置にあります。熱海市内にもこの一群の木造建築が遺っていることはなく、国の文化財に相応しい貴重なものです。
先日、この東山荘を10人の若者たちと磨いてきました。
磨き終わり、皆で背骨を伸ばしながら部屋の天井を眺めた快感は久し振りでした。
掃除をすると気持ちが良いものですが、貴重な文化財を磨き手入れをすることはまた格別で、先人の遺徳が醸し出す品の良い美しさに触れたことも刺激となり、また次もみがき隊出動しよう!と皆で決めたようです。
私の手入れ経験が、次世代を担う若者たちのお役に立つ嬉しい一日でした。
写真:東山荘正門のみがき方説明風景