太田新之介作品集
茶入 志野肩衝
銘「仏陀の河」
高さ9.2㎝×径5.5㎝
造作余話
昨年2月インド・ブータン巡礼の旅で、釈迦の聖地「尼連禅河」の畔に立った折、頂いてきた河砂を土に混ぜて焼いた茶入れである。
11月の夜咄の茶事に使うために焼いたものだが、思うような茶碗と茶入れが窯から出てきた時、興奮した。
何度焼いても幾つかは思う以上のものが出てくる。何度やってもやめられない理由がここにある。
載っている茶杓はインドの竹でこの茶事のために削ったものだ。銘を「寿慈阿多(スジャータ)」と付けた。
釈迦が悟りを開く前にスジャータ村の村長の娘から乳粥を施された由来による。
インドの竹は日本の竹と違い、中に空洞がない。木のようなもので、この茶杓はその芯の部分で作った。
もう一本の茶杓は竹の表面のところから採った。銘を「霊山ノ杖(りょうぜんのつえ)」とした。
仏教聖地「霊鷲山(霊山)」で入手したものであるため茶杓にしたのもだが、釈迦説法の聖地を参拝する人たちが山登りの杖にしているもので、善男善女の汗が染みている。ガイドを通じて折衝した情景が忘れられない。
日本に将来した経緯は、同行のKNOBことノブさんの協力に負うところが大きかった。
先人が、良質な日本の竹を茶杓にしてきた理由が分かった気がした茶杓削りだった。
仕覆はブータンの女性が正装の時に着る裂地を求めてきて仕立てて頂いた。
茶事がこれらの話題で盛り上がったのはいうまでもない。
ちなみに志野井戸茶碗の銘は「夢のつづき」と名付けた。自分が一生夢を見続けながら生きているように思えたからだ。
この二本の茶杓に日本製の竹筒を付け、新春の初釜で活躍してもらった。
茶の湯の面白さを堪能した一年。どこまで続くか、また次の茶事を考えている。
どなたを招こうかなと。
茶杓 左 インド竹 銘「霊山ノ杖」(皮部分)
右 インド竹 銘「寿慈阿多(スジャータ)」(芯部分)