太田新之介作品集
2013年7月15日
作品-10 書
1.書 一行 「水潺々」 (みずせんせん)
2.書 横物 「心法通貫十方」 (しんぽうはじゅっぽうにつうかんす)
3.書 「主」 (ぬし)
造作余話
書はいつも50枚ほど書く。
それも一気呵成に書く。
書く気になるときは、決まって設計が始まった頃と建物が完成した後だ。
ひとつの仕事が何年にもわたるときは、その間、年に2、3度は書に向かう。
筆は常に持っているので、書く時は練習というものをしない。これは若いころに出会った禅僧の影響かもしれない。老師は筆をわしづかみにすると、半折を一気に30枚ほど書いた。私は墨を磨り、その場に居合せていて、老師のその呼吸というものを知ることになった。
後年、書家の小野田雪堂氏にも書に臨む呼吸を教えられた。書いている最中は、いずれも坐禅を組んでいる時の「数息観(すそっかん)」を思わせるものだった。
好きな言葉や文字を書き進めると、気持ちが高揚したあと、整い、清涼感につつまれる。
老師は、書は「君子のたしなみ」といわれていた。
この頃は五尺単宣や五尺全紙といった大きな紙に書いている。墨の量が大変だが、太い筆は使っていて気持ちがいい。
表具されて床之間に掛けられると、拝見をされる方が書に向かい拝をする。拝をされることは嬉しいが、少しこそばゆい。
書は、私の人生時間より長くこの世に遺こる可能性もあるが、余り考えることなく、ただひたすら書いている。
(写真 「水潺々」 撮影 堀田晃子)
2013年7月15日