太田新之介作品集

2012年12月30日
作品-6 彫刻・扁額

IMG_3581.JPG先月作った茶席の庵号額。この扁額で24作となる。

明治期から続いた造り酒屋「会津屋嘉兵衛」の屋号を茶席の庵号「会嘉庵(あいかあん)としたもので、12月半ばに席に掛けた。

扁額を作ることを好む私は、板に直接文字を書き、それを彫る方法と、書を写し彫る方法の二つを用いるが、この額は後者である。板材は銘木の肥松(ヤニ松)。1時間ほどで一気に彫りあげる。彫り方は運筆のように彫り進めている。

HP-121229.jpgこれまでも大きな扁額を彫ってきた。木は木目と年輪があるので、彫り損ないが怖いが、私の場合細部にこだわらず一気呵成に彫る。

道具はノミ一丁で、大きなものは幅一寸の叩きノミ、そのたは5分、3分とものによって変えている。

惚れ惚れする銘木板を前にして、筆を揮う。それを見ながらノミを研ぐ。この時間は気を鎮め、集中力を高める大事な時間。最初のノミを入れる時には、すでに出来上がりのイメージができている。

 

 

HP-121229.jpg 大板のものは文字の線にノミを入れる時、直角ではなく鋭角に入れる。こうすると深彫りした文字が浮き出て躍動する。

自分では気づかないが、彫っている時は「エイ、ホー、エイ、ホー」といった声を出しているようだ。

 

HP-121229-1.jpg彫り上がり、ドロドロとした胡粉を流し込む時の達成感は何度味わってもいいものだ。

寺院の山号額などは高く揚げられる。建物が末長く使ってもらい後の世に残れば、扁額も残るはず。木の建築の設計に邁進してきた私にとって、扁額彫刻はその成果の顕れでもある。

 「千歳楽、萬歳楽、永々棟」

額を揚げる時はその建築との別れである。この何年かの間、こんなにも愛したことは過去にないこと……。いつもそう思いながら額をながめてきた。

扁額を彫ることは別れのしるしなのだ。

誰かに末永く守ってもらえるように、と祈るしるしなのだ。

 辛い別れの切なさつらさ 「だけど、だけどネ」 逢える嬉しさうるわしさ (自作都々逸)

 

 


2012年12月30日