太田新之介作品集
日本のあかりシリーズ-1
「禅のあかり」
闇は人間の精神に多大な影響を与える。あかりを闇の量という視点から考えてみた。
人間の五感を動員してそれを追ってみると、闇はあかりのなかで粒となって漂っていた。
人間の精神を安寧に導くあかりは何か、この問いが坐禅に結びついていった。
それは住まいの中、ホテルやレストラン、バーなどの店舗、宗教施設や茶室にいたるまで使用される、普遍性をもった一つの器具となって結晶した。
(デザインコンセプト・太田新之介)
「坐禅のあかりは、明るすぎず、暗すぎず、眼に障らず」
この言葉をたよりに禅のあかりの探求が始まった。
それは同時に失われた日本の空間が持つ、闇の豊かさの発見でもあった。
(ヤマギワ(株) パンプレットより 平成5年刊 IES(北米照明学会)国際デザイン賞受賞)
造作余話
私の日本のあかりシリーズは現在、「禅のあかり」、「茶事のあかり」、「宴のあかり」、「光のあかり」がある。
「禅のあかり」は20年前、建築家として本格的に手掛けた照明デザインで、以来15種類のものを数えるが、
思い出やそれにまつわるエピソードはこの照明器具に勝るものはなかった。それほど思い入れが強かった。
世界に広められる「日本のあかり」を、と意気込んでいたものだ。
スタッフと何度も坐禅を組みながら思考を重ね、最後は修行道場の老師の直感であかりの質が決まった。
実験データの蓄積も、過去の参考事例も役に立たず、ただ修行を積まれた老師の「よし!」のこの一言で、ことが成就した。
人間の感覚をたよりに生きることが少なくなった現代、このあかりは未だに私に何かを語りかける。フランスやイタリアの人たちがこのあかりに興味を持っていることを知った時、坐禅の普遍性を思った。
東京下町の町工場の名工たちが、手吹きガラスで作ったボデー。絶妙な墨染のグレーの仕上がり。
照明器具ひとつが、大きな建築空間をしのぐ象徴性をもつことを知った作品となった。
以後、この灯火は私の照明デザインの原点となっている。
(「禅のあかり」 引掛けシーリン付 ミニクリプトンランプまたはLEDランプ使用)