新之介文庫・近日発刊予定
(近日発刊)
磯千代(いそちよ)姐さん三味線かかえ、粋な兵衛(ひょうえ)と都々逸で、この世をチクリと刺している。
所は深川お茶屋の二階、香が焚かれた四畳半。猫のタマもニャンとして。
遊び人と芸者と猫のタマで織り成す都々逸(どどいつ)の世界。
時事風刺を上、中、下の各250頁3巻にまとめたニンマリの都々逸集。
あらすじ
1.また会うなんて
「兵ちゃんこんばんは。ねぇ会ったのよ!」
「借金取りに?」
「野暮ねぇ。昔別れたカレよ」
「へー、何処で」
「それがお座敷帰りのクラブでよ」
「磯千代姐さんがクラブ? 老人介護クラブ?」
「違うわよシャンソン歌ってるとこよ」
「都々逸でやってみたら」
「こんなのどうかしら、…ん」
♪ 久しぶりだわまた会うなんて いいわ隣で飲むくらい
「何か歌の文句みたいでいいね」
「兵ちゃんも何時もの即興でお願い」
♪ ここで会うのも何かの縁ね 皮肉すぎてるこの出会い
「そうなのよ皮肉過ぎるわ、そこって別れた場所なのよ」
「何年前のこと?何人目の彼」
「何人目って、みんな初めての彼よ」
「乱交芸者ニャーン」
「タマ、お前と違うのよ!」
「懐かしさだけ残っていたんだね」
「そうよ、こんなの、…ん」
♪ 懐かしさだけ置き去りにして 駆け抜けてゆく時もある
「そうだ、あるんだよな」
「その時カレに女ができたのよ。聞いてやったわ」
「こんなにいい女はいないのにね」
♪ あの日の人は続いているの それとも別のあの方と
「姐さん優しんだね」
「もう何十年も前のことだもの」
♪ ほどほどにして身身を固め 思いかためて、どう、やり直したら
「姐さん未練がましくていいね。女の匂いがするね」
「そしたら彼って、もう少しでお迎えが来そうだから無理だって」
「こんなかな、…ん」
♪ やり直してもまあ同じこと あの日の頃に戻れない
「故事にあるね、覆水盆に返らずだね」
「でもね、いい歳してクラブに来るなんていいんじゃない」
「尊厳死協会にでも入っていそうだね」
「カレはそんな不粋じゃないわ。もっとカッコいいのよ」
「武士の潔よさが身上だね」
「そうよ素敵な枯れかたよ」
「それで…」
♪ それでも何時か会う時までに あなたの幸を祈ってる
「いい男だったんだね、その人」
「そうよ兵ちゃんみたいな人よ」
「姐さん上手いね。姐さんの代弁で唄おうか」
「お願いやって!」
♪ 忘れた頃にまた出会ったら 口づけの日が蘇がえり
「兵ちゃん有難う。いい思い出はいいわねぇ。今でも胸がときめくわ」
「ただの年寄りのヨロメキニャーン」
「バカタマ、お前になんかに良さが分からないのよ」
「姐さん、今夜の直球都々逸はシャンソンのようだったね」
「そうよ、都々逸は日本のシャンソンだもの」
「今夜はそこのクラブへ行ってみようか」
「まあ嬉しいわ、お願い連れてって」
「ボクがその元カレになりきってみるかな」
「タマ! なんて格好してるのよ」
「シャンソン歌いに行こうニャーン」
造本体裁
判型:電子書籍
発売日:近日中発刊予定
著者:太田新之介
発行:新之介文庫