新之介文庫
日本文化は古神道、日本仏教、皇室から成り立ち、それらを体験的に実感できるものが茶の湯であるとする著者は、茶室という木の建築造営を通して、日本のすがた・かたちを浮き彫りにしようとする。
伝統とは何か。また物と事との違い、事実、真実、本質とは何か、生命といのちの理、また、先人が営々と築き伝えてきたものは何か。若き女性建築家が、挫折を味わいながら、建築の本意とするところを知り、自らも伝統とは生きる力であることを実感し、ひとりの人間として目覚めてゆく。
著者が畢竟のテーマとしている「日本のすがた・かたち」を、儚きラブストーリーとして描き切った長編小説。
あらすじ
北島千波は、日本を代表する女性建築家として注目を集めていた。
京都貴賓館の設計を手がけるリーダー格として活躍していた折、ある本の一行の文章に出会う。その一文は、何故か千波の心の奥深くに、漠とした不安として宿る。
その後、北鎌倉の福興禅寺の茶室群の設計を依頼され、いよいよ建築界の寵児として設計を始めようとした矢先、依頼主である住職の母親で、かつて茶道裏千家流の重鎮であった岩倉マツという老女に、茶の湯の本質を知らないことを見抜かれ、一蹴される。
千波はその恥かしさに泣き、自分が虚飾の日々に過ぎていたことに気付き、地位や名声など一切の日常を棄てる決心をする。
京都に行き、本を紹介した銘木店社長の吉丸龍一に会い、一文の著者、建築家の谷一宇に会えるよう頼み込む。吉丸は千波の熱意に打たれ、同行して熱海の谷一宇に会いに行くことになる。
千波は谷に会い、北鎌倉の仕事を紹介させて欲しいと懇願する。一旦は断わる谷だったが、マツこと茶人岩倉宗松に興味を示し、二人の心根にも応え、寺から依頼されることを条件に承諾する。
住職と妻の多華は思わぬ展開に驚くが、マツも賛同し、谷に仕事を依頼し、千波は完成まで谷の助手を担当することになる。
千波は退職し、品川から熱海に住まいを移し、谷のアトリエに通い始める。そして茶室の設計と共に日本建築の真髄を学んでゆく。
設計が進む中、千波は谷と妻の吉野、陶芸家の都築京造などを通し、日本人が培ってきた上質の文化に浸り、次第に伝統の持つ瑞々しいエネルギーや茶の湯の美と深い精神性に染まっていくのだった。
やがて、無事に茶室の工事は始まるが、千波には過酷な運命が待ちかまえていた・・・。
情人遥夜を怨み (じょうにんようやをうらみ) 恋人は 逢えない夜を怨み
竟夕相思を起す (きょうせきそうしをおこす) 一晩中 思いを募らせる
造本体裁
判型:電子書籍(Kindle版)
定価:1,000円(税込)
発売日:2018年1月
著者:太田新之介
発行:新之介文庫
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Amazon Kindleストア:「月華の海」著者 太田新之介