Sのプロジェクト
「三島御寮」造営計画の最終案をまとめるため、奈良の東大寺などを調査してきました。
東大寺は修学旅行以来何度も訪れていますが、木造建築の設計を学ぶ際のお手本の一寺にしています。
理由は大仏様(旧天竺様)という建築様式の特色といわれる南大門などが単純で分かりやすい木造構造を遺していることと、大仏殿が創建の天平時代から、鎌倉時代、江戸時代の二度の再建をして現代に至っていることで、規模や当時の世相、設計水準、信仰心の在り様までもが手に取るように分かるからです。
木造建築の設計は木を知り、寸法を決め、建てる順序が解ればできるようになります。
今風の木質系木造住宅などの設計は少し慣れれば中学生でも理解できますが、本格的な木造建築はそう簡単には設計できません。
ヒントは江戸時代に活躍した棟梁達が目指した「五意達者(ごいたっしゃ)」に通じているかどうかです。
私は木造建築を設計できるようになりたいと思い定め40年経ちますが、それは「五意達者」を目指してきたと同じことでした。
それも何もかも工事現場が実践の場で、机上では達者になれないというものでした。
古建築を実測調査し、先人の仕事を偲び、そこから新たな創造を展開して行く作業こそが、伝統を繋ぐことだと知ったのは50も過ぎた頃でした。
縁を頼り、国宝の木造建築を幾つも実測調査した感触が現在の私の設計観を支えていることは事実ですし、その結果得られている寸法や、肌合いを含めた美的な審美眼といえそうな感覚もその実測と分析のお蔭だと思っています。
「三島御寮」の茶室群計画は、遠く室町時代の「禅院の茶」に源を発しています。
構想の柱は足利義政、能阿弥、村田珠光、千利休、織田有楽、小堀遠州、三千家、近代数寄者、そして近未来へと続く茶の湯者を輩出できるかの茶の舞台造りです。
後一歩ですが、ここに来て計画決定するためと木材の調達の行脚を始めました。
幾つかの古建築と先賢の行履を訪ね、三百年先に子孫が応えてくれるような計画にしたいと思っています。
東大寺にこだまするのは子供たちの歓声ですが、その半分は中国語などの声でした。
60年前とは隔世の感がありました。
また、鎌倉時代再建の立役者重源と仏師の快慶に興味を覚えていましたが、奈良博での「快慶展」も堪能しました。
平安時代の仏師定朝、そして快慶。古建築と共に優れた文化遺産があることで私は今と未来を生きていると改めて思ったものです。
写真:TP 東大寺大仏殿正面
中 大仏殿主柱
下 南大門内部木組み