Sのプロジェクト
儀礼・儀式のステージである「三島御寮」造営計画は変更の最中です。
主たる計画変更の要因は儀礼・儀式に対する考え方からです。
私たち人間は毎日意識せずとも儀礼・儀式の中に生きて生活しています。普段は気がつきませんが、冠婚葬祭や正月からの年中行事に始まり、至るところに存在する神仏、果ては自然界にある海や山河、岩や木々、草や花、先祖や先賢、先輩諸氏に対し、ある種の儀礼・儀式という形でつながっています。
会社でいえば朝礼やミーテイング、打ち上げというように、ある意味を持たせた集まり方も儀礼・儀式化されたもののひとつです。
そのように考えると「おはよう」、「こんにちは」、「こんばんは」、「いただきます」、「ごちそうさま」、「ありがとう」、「おやすみなさい」の習慣もある意味を持った儀礼・儀式といえます。
人間は集団生活を余儀なくされている生きもので、ひとりでは生きることはできません。自給自足といえどもわずか食料を得ているに過ぎず、医療や住環境など多勢の中でしか命を維持することはできないものです。
大勢がまとまりひとつの意思をもってこそ、安全や安心の生活が営めることを知っていた先賢は、生活の局面局面を儀礼・儀式化する工夫をしてきました。
その目的こそ人と人を結びつけるためのものに他なりません。
人は儀礼・儀式により結びつき、それによって安心して生存や生殖できることを目指したのです。儀礼・儀式は人間同士を繋ぐ縁の糸の役割を担っているといっても過言ではありません。
数多の儀礼・儀式の中で最も洗練されてきたものは宗教のものといえます。神や仏と繋がる儀式は、永い時間を経て結晶度の高い美しさがあると思います。
世界には人の数だけの儀礼・儀式があるのではないかと思うほどですが、それだけ人は人と繋がる必要があるということになります。
日本の儀礼・儀式の中で最も美しいものは天皇による祭祀といいますが、皇室はそれを秘事として公開していません。儀礼・儀式の祭主や斎主、司祭など主たる執行者は神仏と人、人と人、物と物を結ぶ事をすることに意義があり、執行者そのものの意味付けではないようです。その意味からすると「人々の幸せをただ願う」だけの天皇の儀式こそ、その頂点といえます。
日本文化は古神道、日本仏教、皇室の三つが大きな塊ですが、それらを包含し私たち誰でもが日常生活の中に実践できる儀礼・儀式こそ「茶の湯の茶事」ではないかと思います。
茶事には神事、仏事、祭事、祝事、食事、芸事など人を結びつける様々な事々が詰まっています。
茶の湯のステージ造りを目指す造営計画の本意は、将来に向けた儀礼・儀式の具現化といえます。
今、具現化の構想を練り直し、当初の計画を描き直しています。
もう少しでまとまる予定です。
写真:上 飛騨一之宮「水無神社」の祭事
下 天皇の秘儀
TP 裏千家による「供茶式(くちゃしき)」