Sのプロジェクト
広報の石川です。
引き続き、お薬師さまのお話です。
前回触れたように、病気平癒・延命長寿のみならず、悟りへの到達を妨げるすべての精神的・社会的な苦しみからも人を解放する…
阿弥陀如来の四十八請願が来世での安らぎを約束するのに対して、お薬師さまの十二の大願は人々が生きている現世での安らぎ(現世利益)を約束されたものでした。
世の中や他人のために自分を活かしたいと望んでいるにもかかわらず、様々な病や不調によってそれが阻まれている…
そんなすべての人々へ功徳を発揮するものとして、お薬師さまの信仰は広まっていったとされています。
利己的な思想とふるまいを捨て去り、他人への福利を願う人格へと人々を導いていく。
それが、お薬師さまがはるか昔から、ずっと願い続けていることではないでしょうか。
ここで、Sのプロジェクトのヒントを求めて、
現代を生きる私たちが持つ苦しみについて考えてみたいと思います。
ITが人々の暮らしを大きく変え、経済のグローバル化はますます加速し、目にも留まらぬスピードで毎日は過ぎ去っていきます。
すうっと心を落ち着かせ、過ぎていく出来事に思いを巡らせ、自らを省みる時間もなかなか確保できません。
かつてのお薬師さまの時代からは考えられない程に医療技術は発達したものの、現代社会特有の新たな病が生まれ、人々は苦しんでいます。
また、社会経済の高度化に伴い、精神的・社会的な苦しみも多様化や複雑化が進んでいます。
そして、それらの中には、いくら医療技術が発達しても治しきれないものを多く孕んでいるように思えます。
こうした現代社会で、人々はどうしたら健やかに生きていけるのでしょうか。
ここからは私の個人的な予測ですが…
お薬師さまが導こうとされた、他人への福利を願うという人々の姿に、その答えがあるのではないかと感じています。
人々の調和と支え合いの中にこそ、現代の様々な不和や不条理、苦しみから解放されるためのヒントが隠されているように思えてなりません。
なぜお薬師さまの尊像を建築プランの基本としたのか。Sのプロジェクトは病の館である病院と真逆の造営なのか…
建築家の構想を追いかけながら、少しずつプロジェクトの核心に迫っていきたいと思います。
(写真 奈良薬師寺の国宝「薬師如来三尊」 薬師寺HPより 建築家は今春、奈良薬師寺の副住職を団長とする、インドの聖地巡拝に同行した。Sのプロジェクトに何か深い分けがあるのだろうか。)