日本のすがた・かたち
「母が亡くなりまして、お墓を作りたいのですが、設計をお願いきますでしょうか」
「え、お墓ですか…。うーん、未だ設計したことがないなあ…」
「家を建てることになったら設計をお願いしようと思っていましたが、先に父母の眠る家となるお墓の設計を、是非お願い致します。いずれ私も入ることになりますので、建築と同じと思いますので是非」
知己で妙齢の女性は、聞けば代々神官家の家柄といい、昨年亡くなった母御から墓所の建立を頼まれていたといいました。
「できればお墓の銘も書いて頂きたいのですが」
(オリジナルのお墓を作るとなると責任が重大だ、さあ、これは困ったな。ましてやこの忙しさの中で、お墓となるとそう簡単には行かないと思う…)
4か月ほど待って頂いて、どうにか依頼された10月に間に合い、石材店との打ち合わせも済ませ、「○○家奥都城」の墓標も書いて、先日お渡ししたところです。
これで「私の新居ができます」、といわれて不思議な気持ちとなりました。
建築家を志して40年になりますが、まさかお墓を建築と同じ考えで設計できるとは思ってもみなかったことでした。大きな寺院や茶室のような極小の空間創りが得意と思ってきた私がまさか畳一枚弱の敷地に死者の住まいを造ることになるとは…。
神道の家柄はお墓とはいわず、奥津城(おくつき)といい、神官家は奥都城と書きます。墓地の聖域を四方の御柱で囲い、石塔は三種の神器のひとつの天叢雲剣(あめのむらくも)のイメージで、いずれも頂上は兜巾型としました。
石質は稲田御影石を用い、白砂利とともに清白の聖域としました。お参りの時に石塔には注連縄を掛け、真榊の玉串奉奠ができるように、八足の台を設けました。亡きご両親はその奥にお入り頂くという設計としました。
もうすぐできると思いますが、彼女が玉串を捧げ、ご先祖、ご両親に拝礼する姿を想像しています。真っ白の中にきっと美しい姿が映えるのではないかと思っています。
建築家として生きてきて、とても嬉しい仕事に巡り会えたと思いました。
さあ、また明日から。
奥都城に参る日を待つ神々は 君健やかにあれと願はむ
写真:上 奥都城のイメージスケッチ
下 今朝の白椿「獅子王」
TP 祖神の住い 伊勢内宮