日本のすがた・かたち
強い台風が次から次へと襲来していますが、この半年は今まで体験していないような時を過ごしています。
同時に幾つもの建築構想を打ち立てることになり、また人の関係が幾重にも重なり、日常的にしていたことが立ち止まり、まるで他の人の人生を過ごしている気分です。
時間的にはもう少しというところまで来ましたが、現在も何処か頼りのない不思議な感覚に包まれています。
普段は多い時であれば十数冊というところですが、この半年間は一冊の本を読むに止まりました。
斎藤成也(さいとうなるや)著『日本列島人の歴史』(岩波ジュニア新書812)です。久しぶりに出会った快著でした。勿論一気読みでした。
何しろ私が知りたかった縄文時代の先祖を、北部のアイヌ人、中央部のヤマト人、南部のオキナワ人と遺伝子学的に三分類し、DNA解析を基にその特色を解き明かしています。。時代区分も定説とは異なり、江戸東京時代、平安京時代、ヤマト時代とハカタ時代、ヤポネシア時代とし人類の原型まで遡っています。今までの考古学的な歴史観と異なり、科学的データを基に打ち立てた新説といえるものでした。
古代の日本人の歴史は、ともすれば頼りのない「記紀」など物語的憶測や、考古学的見地に偏ったものでしたが、遺伝学的見地からのデータによる考察は説得力に富むものでした。抱いていた歴史的疑念が幾つも解け、旧石器時代まで得心の行くものでした。
またこの新説により、「飛騨の口碑」の信憑性に改めて感じ入りました。2500年前からの口碑を伝えた山本健造は、口伝を基に実地調査をして科学的データを添えたところに功績と偉大さがありました。
昨今は情報の坩堝の中で困惑しながら生きざるを得ない時代です。
情報は一過性で直ぐに失せ、立ち止まることがなくなりました。深く考えることをしなくなったということです。それはまた、データに基づかないあやふやな予言めいたことが多くなったと同じことで、何処かの思いつき口から出任せ新代表のように、無責任がまかり通る時代となってきました。現代はネット民の台頭や、その場しのぎのパフォーマンス人間が多くなり、物事にすがた・かたちが見えなくなってきています。私はこれを憂います。
斎藤氏は国立遺伝学研究所教授、東京大学院教授で、私の近所に勤務していることが分かり、一度会ってお話しが伺えればと思いました。飛騨の口碑や縄文時代の住まいの話しもしたいと思いました。
有難くも何処か切なく過ごしている時もあと一息。
こうして知らぬ間に齢を重ねているのだと思いました。
満月に虫の音
満月や 妖しき宵に 虫の声