日本のすがた・かたち
「古稀偶成」 こきぐせい
獨往書生業 独り往く 書の生業
劫余守一貧 劫(ごう)余 一貧を守る
胸中人若問 胸中 人若し問わば
心緒愛吾癖 心緒(しんちょ) 吾が癖を愛す
「たまたま古稀に作った詩」
私は独りで書を生業として生きてきた。
大戦(劫)の後からも清貧の精神を守り暮らしてきた。
今年古稀になった。現在の胸中を若し人から問われたら。
心境は己の生き方を愛すと言う。
文人小野田雪堂が70歳を迎える時に詠んだ漢詩です。
私ももう直ぐに満70の歳を迎えます。
雪堂さんに倣い一詩を作りました。
「古稀偶成」
獨往建生業 独り往く建築の生業
劫余求美極 劫(ごう)余 美極を求む
胸中人若問 胸中を人若し問わば
心緒愛吾態 心緒(しんちょ)吾が態(てい・すがたかたち)を愛す
私の場合の「劫」は21歳の時に遭遇した高圧感電事故で死にかけたことです。
思い起こせば30歳の頃から理想とする建築家を目指して40年。
現在の心境の変化は40年前と変わることなく、むしろ健康食品のように発酵をしていて、この先はどうなるのかと興味津々というところです。
ひとついえることは、その歳になってみなければ分からないことがある、ということです。
そう考えると、この先も歳をとるのが楽しみというものです。
まあ、余り歳にこだわらなくてもその内に、眼と耳が高度に劣化し綺麗な女性も認識できなくなるのは必定です。頭と下半身も軟化の一途をたどり、いずれオムツの世界かと…。
幸いに次代を担ってくれる若者たちに遊んでもらえる日々を送っています。
伝えたいことが山ほどあり、健やかな人生を願ってやれる心境を有難く思っています。
「劫余求美極」の美極とは、美しさとは何か、その極みを求めてきたというものです。
美しさこそ人間の品性を磨き、品格を高めるものと思います。
日本人は自然の風光に恵まれ、生活そのものが優れた芸術美の中で営まれてきました。
つまり、審美眼を育みながら生きていることに他なりません。
この古来稀な日を迎えるに、太古から営々と続いてきた先人の遺徳を思わずにはいられません。
さあ、また今から三百年先を目指して、GO!
心境都々逸
♪ 古来稀なり 来てみりゃわかる 嬉し恥ずかしコキジジイ
写真: 庭前の紅葉