日本のすがた・かたち
窯の入口を崩し、いよいよ窯出しです。
さあ、この秋に催す茶事に使える茶入や茶碗が出てくるのか。
期待が膨らみ気持ちが高揚します。
次々と出される焼物たち。
丹波、備前などの焼き〆ものが前面に置かれ、志野や萩は窯の一番奥の位置です。
今回私が作ったものは萩でした。
陶芸家と共に10人はそれぞれ役割を分担し、私は窯から出てきた作品を順に並べる係りです。
一通り土物の無釉薬物がでると次は志野で、いよいよ萩の番になります。
さあ来たか、と思っても私のものは未だ…。
窯の中で割れたか、何か上手く焼けなかったかと少し不安になりながら待つと。
「来た!」。
茶入が三つです。そして続いて茶碗と水指、少し置いて香合の計12点です。
皆、高温で釉薬が溶けすぎたのか、一様の色ではないものもありましたが、10月末に催す茶事の道具には相応しい、すがたと色でした。
直ぐに当日の道具組が頭の中を巡りました。
私は茶事に使うために陶芸を始め、既に30年余を経ています。
志野、有田、唐津、信楽、楽、伊賀、丹波、萩などを作り、客には少々押し付けがましくても我が作品として折々の茶事に使ってきました。
所望されて差し上げたものもありますが、何よりもその茶事のために作っていることが道楽の極みというものです。
その茶事にはこのような焼物が相応しいと思いながら作り、想像以上のすがたかたちをして窯から出てきたときのワクワク感は、何ともいえないもので、初デートの時の心情に似ています。
イメージは秋の深まりで、紅葉の候の名残の一会…。
要望もあり、今回から私の三島御寮造営構想を支えてくれる新会社の企画の茶事を一日加え、体験のない若い人たちに、日本の美意識の最たるところの茶の湯の茶事を堪能して頂くことになりました。。
私は木の建築や茶事を通して日本のことを知り、そして日本人になってきたように思います。若い人たちにそれを伝えることができればと思います。
さて、この茶入の銘は何としようか、茶杓は、と。
あと2ヶ月余り、恋心がかきたてられているようです。
写真: 上 窯出し直前の窯の中
下 自作「萩肩衝茶入」
TP 窯から出たばかりで、未だ温かい作品たち