日本のすがた・かたち
“日本人の優れた記憶を伝えたい”
現在、私がいちばん関心をもっているのがこのことです。
優れた記憶とは、縄文の昔から営々と培ってきた木造建築技術のことをさします。
私たち祖先は、約3万年前から木や土づくりの住まいで暮らしてきたといわれています。洞窟などから始まり、木を使い始めたのは5万年前からという説もありますが、いずれにしても住居は周囲にある木々を利用していました。
最近、北海道帯広市にある遺跡で発掘された約1万4000年前の縄文土器片から、海産物を煮炊きした焦げカスが見つかり、世界最古の煮炊き跡と話題になりましたが、日本列島からは、これからも続々と発見されるはずです。
いつものことですが、遺跡発掘は、この当時は何を食べ、どのような家に住み、どのような衣服を着て暮らしていたのか、その当時の衣食住が現代の私とどのようにつながっているのか、とても興味が湧くものです。
日本人は棲みついた周辺にある土や木や竹や、栽培をしている稲や葉を利用して住まいを造り、子孫を残してきました。私もその末裔で、想像のなかでは5万年前からの記憶が、私に直結していると感じることが多々あります。キーワードは「木の建築」です。
現在、我が国に遺っている文化財級の建物のほとんどが、法隆寺に象徴されるような木造建築です。しかも世界に類のないものとして今も使われているものです。ローマのバチカンなどにも現在使用の建築はありますが、現在では木造のものは日本にしか存在しないといっても過言ではありません。
建築がなぜ千年以上も使われ続けてきたのかというと、儀式があるからです。
儀式を行うために造られた建造物は、その儀式が絶えない限り存在します。そして人々は手入れをし、修理保全を成して守ります。つまり、建築は儀式と表裏一体のものなのです。
私は人と人が結びつくためには儀式が必要だと考えています。人間が社会的に生きて行くには、結びつく儀式が欠かせないのです。その意味で建築は儀式を行うための儀礼なのだと考えています。
日本人の優れた記憶を次代に伝えるには、儀式を展開できる木の建築という儀礼を造営し、先人が伝えてきた儀礼儀式は未来につながるものがある、とそのすがたを見せて手渡すことです。
自分も手渡す一翼を担う先人となりたい。そう思う今日この頃です。
(写真 「茶会」という儀式)