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2021年9月11日
忙中に閑有り

またまた僅かな閑をみつけては茶杓を削っています。

半年ほどは仕事に追われ、コロナや熱中症対策の中にありましたが、常のスケジュール通りの生活が続いていました。
それが7月3日に発生した熱海市伊豆山の土石流から大きく変わってきて、予定が定まらず、この1ケ月はひたすら時の移ろいに身を任せる日々で、悶々とした毎日でした。

 

現在取り組んでいる仕事のひとつに、箱根に在る茶室「山月庵」改修工事の監修があります。この茶室は名勝「神仙郷」の中に在り、令和改元大修理の中核を成す建築として位置している名席です。

先日、「杮(こけら)葺き屋根」の解体工事が始まり、現場に立ち会いました。
そこで目に留まったのが屋根の軒先に付けられていた椹(さわら)の板材でした。

15×20、厚みが2センチほどの板は半分ほど腐っていて、廃棄処分となる古材でした。
腐り加減をみる参考に板を外し、手にしてみると…。

(上質の椹だなぁ 捨てるには惜しいなぁ 先人が造った屋根の歴史が詰まっている…)

私の脳裏に昭和25年の創建から70年の歳月が巡りました。

(先人の名残を留めたいが…)

浮かんだのが所持している法隆寺の古材で造られた茶杓でした。

(よし!この古材で茶杓を造り、有縁の方々に使ってもらおう!)

頂いてきた古材の板を寸法に割り、その晩から早速削りました。
時間を忘れて没頭していました。
削りの最中は山月庵造営に携わった方々に思いを馳せ、至福の時を過ごしていました。

夜な夜なの削りで数本が出来上がり、筒と箱に銘を賦し、箱裏に「以山月庵古材造之 花押」を書きました。

(先人の名残が留まるぞ…)

まあまあの出来でした。
作家は心をストリップにし、俳優は身体をストリップにするといいます。建築家も心をストリップにしますが、それを形に表現するものです。

自然素材を用いた木造建築の改修には、それまでに携わった先人の手の温もりを感じます。その温もりを頼りに、また私たちご縁のある者がまた先人となって行く…。この連続こそ人間の営みの根幹を成すものといえるようです。

先夜の新規使用材の茶杓削りに続き、忙中の閑を楽しみとしています。

 

   コロナ禍や 月の出潮か 杓削り

 

写真:山月庵古材 茶杓 銘「光ノ郷」自作

 


2021年9月11日