日本のすがた・かたち
東京スカイツリーは来年2月に完成し、5月に開業予定です。
先日、テレビでタワー建設事業の特集番組がありました。
仕事柄、建設計画概要の情報は得ていましたが、改めてその感を強くしたものでした。
それは、このタワー建設が仏閣にある「五重の塔」建設と、その建築思想や手法が同じだと思ったことでした。
もちろん構造が鉄骨と木造との違いがあり、また飛鳥や奈良時代との文明の発展の著しい差はありますが、私には木造の五重の塔建設とスカイツリーがダブって見えていました。
ツリーのタワー中心部には、地震時に制振システムとして機能する 心柱(しんばしら)が設置されています。直径8m、高さ375mの筒状のコンクリート構造物です。
その心柱の空洞の中に、デジタル放送用アンテナを取り付けるゲイン塔という500mを超える鉄塔が通り、その天辺が2階建ての地震対応の制振機械室、その屋根の上に避雷針があり、その頂部がタワーの最高点の634m(ムサシ)となります。
ゲイン塔は地上で組み立てるためリフトアップ工法というもので世界一の高さに吊り上げられます。超高層ビル1棟分ほどの大きさの構造物を634mも引き上げることは前例がなく、今回採用されたリフトアップ工法は、工事全体のなかで最大の見せ場となる技術です。
日本の建築技術の進歩は目覚ましく、東京タワーの建造時( 1958年)に比べて鋼材の品質や溶接技術、各種構造計算(シミュレーション)などの設計技術、基礎部の特殊な工法が大きく進歩したことにより、東京タワーの建築面積を大きく下回る面積でのこの高さの自立式鉄塔の建設が可能となっています。
鉄骨の溶接技術も熟練を要する部分が多く、優れた職人技が発揮されています。
建設の状況を見ていると、高い精度を要求されるところでは、コンピューター制御とともに、人の手業(てわざ)の見事さにたよるところがずい処に映され、そのコンマ何ミリかのせめぎあいに、日本人技術者の真骨頂を見る思いがしました。。
この塔は木造技術の粋を集めている。
この技法・技術は縄文時代から継承されてきた先人の智慧の結晶だ。
奈良薬師寺を建立したような平成の匠たちの仕事だ。
何度もそう納得して観ていました。
世界一の高さを競うことが良いか悪いかはともかく、高度な木造技術がこのようなタワーに生かされ、生きつづけていることに仄かな安堵を覚え、これらの技術は次代に確実に伝えられて行くだろうと思いました。
技術は先人からの贈り物、それに新たな挑戦を挑む…。
伝統とはそのようなものだと思っています。
(写真 東京スカイツリー 提供大林組)