日本のすがた・かたち

2020年8月5日
森林列島

 

我が国は国土の3分の2、およそ2500万ヘクタールという広大な面積を森林に囲まれた世界有数の森林国です。列島に住む人たちは身近にある森林から建築材料を調達し、2万年近く暮らしてきました。

今日まで生活が続いてきたのは一重に森林や海のお蔭といえます。

 

私の仕事である建築も縄文期の竪穴住居から、高床式、寺院、寝殿、書院、城郭、数寄屋、町屋、民家、擬洋風、モダニズム、超高層、プレハブ建築など、幾多の変遷を経て今日に至っていますが、その主流を成しているものは「木」という素材を生んできた森林です。

 

近年、その森林に異変が起きています。

その兆候は、山に生きる動物が人間の住む場所に下りてきて、農産物の被害が多くなっていることです。鹿、猪、猿、狸、狐などの他、熊の出没する回数が増え、甚大な被害額がでています。

原因は里山が減り、森林が荒れていることが挙げられています。

山が荒れ、林業が廃れていることに比例し、生態系に異変が起きていることによるということです。林業に従事する人の割合はここ数十年で急激に減っているのを見ても分かることです。

その一方で、国土を覆う樹木自体は、年を追うごとに増え、今の森林資源はおよそ52億立方メートル、年間7000万立方メートル増加しています。東京ドーム56個分の体積に相当します。

その人工林の多くは、伐採に適した「主伐期」と呼ばれる樹齢50年を超え、主伐期を過ぎた樹木です。太くて切り出しが難しく、用途も限られ、格安で取引されることも多く、そのため、伐採すればするだけ損をする可能性が高いため、手を付けられないまま放置されているケースが多発しています。

木が増え続けるのは、環境面を考えれば良いという意見もありますが、ただ放置し伸びきった樹木が増えるばかりだと様々な問題が起こり、巡り巡って日本の農林水産業は崩壊に追い込まれ、自然循環サイクルも停止する危険性もでてきました。

先日、興味あるニュースが飛び込んできました。

日本の林業の窮状を重く見て発足した会社「MEC Industry(メック・インダストリー(鹿児島県)」です。

MEC社は、三菱地所や大手建設会社など、木材活用に関わる企業7社の出資を受け設立され、そのメインになる商材は、鉄筋・鉄骨造にも調和する木を用いた新建材、そして製造・組み立てが容易な「木造プレハブ」のふたつといいます、

出資企業は、いわゆるゼネコンから金属・セメントの製造、木材加工を請け負う会社までさまざまで、これにより、木材の選定から切り出し、製材、加工、組み立て、販売というMEC社1社で担うことができ、大幅な中間コストの削減が図れるとのことです。

 

「これまでは、山林を伐採して市場に卸してから売却先を探すという、従来の『プッシュ型』の原木調達が主流でした。当社では、伐採前に山林に欲しい木材を伝える『プル型』のスタイルに変更することで、有効活用が難しかった、大きくなり過ぎた木も利用可能になったのです」(森下社長言)

 

コロナ禍の真最中、農業もそうですが、林業、漁業など第一次産業がこれからの日本再生には大事だと思っていました。その矢先、このような設立は先を見据えた林業ばかりか、我が国の木造建築に明るい光を差し込むことなると嬉しく思いました。

新会社の100年先を見越した「林業大国」的事業展開に期待し、私も微力ながら木の建築造りに精を出して行こうと、改めて思いました。

 

「コロナがチャンス!!」

そう思えるニュースでした。

 

写真:「蓮の芽」


2020年8月5日