日本のすがた・かたち
ゆったりと
湯気の向こうに四月雨
脚を伸べして目を閉ずるなり
今はお風呂のことをバスといいます。
日本人は不思議に温泉に入る時だけ、湯船という人が多いそうです。
湯船とは江戸時代、船に浴槽を設けて川筋に漕ぎよせ、料金を取って入浴させた小船が語源のようです。
お湯がたたえられた浴槽で、身体を沈め、脚を伸ばしてみる至福の時を日本人は好んできました。それは気候が入浴を促し、健やかな心身を保つために必要なことといわれますが、入浴好きにはもうひとつ大きな事柄が潜んでいるようです。それは清らな水、そして太陽の光の作用です。
豊富な水と光に恵まれた国土には、水と光によって心身を清めるという古からの習わしがあります。人間は本来的に罪を犯しケガレるものとしながら、それらを清め、滅しさせ得るというものです。よく祝詞に奏上される情景がそれを伝えています。この原点は天地自然に恥じ入る、というところから生み出されているようで、我が国に育った気高い倫理観といっていいようです。
地震、雷、大雪、暴風雨などの自然の猛威を畏れ、それをまた自然の恵みとし、多とする日本の風土と精神性。その中にあって人間の罪ケガレを水によって清め太陽の光で再生させてゆく禊の儀式。営々と繋げてきた先人の理です。
雷鳴が始まり、虹があらわれツバメが飛び交うこの時季。光が射した湯船の周りには草花が咲き乱れています。
私は湯に浸かり、脚を伸ばし、目を閉じて、ゆっくり時を待ちながら罪ケガレを祓っています。