Sのプロジェクト
去年の暮、三島御寮造営計画の最終案がまとまりました。
後は基本設計、実施設計を進めて行けばいいというところまできました。模型や3Dによるまとめに着手する段取りも出来上がっていました。
しかし今年に入ってどうしても解決しなくてはならない課題が壁となり、作業が進まなくなりました。
「椅子を使うか否か」。
茶の湯のステージである三島御寮の各棟は主として木造数寄屋建築で、床は主として畳が敷かれています。当然、伝統を重んじた茶事や茶会のための施設であるため、日本の風習である「座る」という空間を考えて計画を進めてきたわけです。
これから五十年先を考えた時、果たして畳に座った点前やもてなしが続くのか、高齢者が増え、椅子で生活する人が殆どとなる可能性が高く、畳に座る行動はなくなるのではないか。
茶事・茶会の形態も時代と共に変化してライフスタイルに合った椅子による動きと、それに沿った空間が必要となるのではないか。
茶事・茶会の儀礼・儀式が美しく執り行われる建築空間が目指すところではないか。後々の人たちが眉をひそめることはないのか。
伝統と新様式の狭間で揺れ、幾つかの名席を訪ね調査をしていました。
「茶の湯の椅子を創ろう!」
元号が令和に変わり、出した結論は「椅子による儀式空間の創出」でした。
最大の理由は、私自身も既に正座に耐えられず、あぐらと椅子併用のお茶に化していて、客の過半は椅子を所望し、正座は苦痛の所作となっていることでした。
畳を敷いた茶の湯の席に相応しい椅子をデザインしよう。その儀式のための建築様式を創ってみよう。そう思うに至りました。
このところ長く漂っていたモヤモヤは晴れ、今は一心に鉛筆を走らせています。
また今月から気鋭の建築家が設計に参加してくれることになり、気合いが入っています。
彼女は三人目の協力者ですが、私にとっては百万の味方を得た感があります。
長梅雨もそろそろ明けそうです。
梅を干せる日が近そうで、ウキウキと…。
写真:今日のラフスケッチ