イベント情報

2019年7月24日
旧小松宮別邸・「桜御殿」

数か月前、箱根の強羅で名建築について講演をした折、「三島市にある楽寿館という建物をご存知ですか?」と質問しました。
参加者は誰一人として知らず、「では楽寿園は?」と問うと、2割ほどの方が手を挙げられましたが、後で「楽寿館は老人施設ですか?」と尋ねられました。

このやり取りを三島市の文化行政担当の人たちに話しました。
相当ショックを受けたようでした。

 

楽寿園は明治23年~25年にかけて造営された、小松宮彰仁親王(伏見宮邦家親王第8王子)別邸の庭園で、楽寿館はその中に建てられた殿下の謁見の間だった「楽寿之間」を持つ主殿でした。

昭和27年(1952)所有者の緒明氏より三島市が買収し、三島市立公園となりました。この折、市民から名称応募して「楽寿園」、「楽寿館」と名付けられました。昭和27年7月14日(1952)「楽寿園」は開園され、昭和29年3月20日(1954)「天然記念物・名勝楽寿園」として国指定となっています。

数日前、庭園の一角にある小松宮殿下の寝所だった「桜御殿」が国の登録有形文化財の答申を受け、報道発表されました。既に登録されている隣接している「梅御殿」と共に、私が調査し所見を書いた建物です。
今回の申請報告書の表題は、今までのような「楽寿園・梅御殿」という名称ではなく、〈小松宮別邸「桜御殿」〉としました。所有者の緒明氏、市県当局に諮っての名称でした。

そして登録申請業務の後、市当局者に「楽寿館」の名称変更についてお願いしました。
教育長や市長とも面談して、「楽寿館」を「小松宮別邸」にされたら如何か、と進言しました。
楽寿園の桜御殿より、小松宮別邸の桜御殿の方が名称として相応しいのでは、という内容でした。

 

我が国は、来年のオリンピックに向けて、法整備をし、観光資源の開発に力を入れ、文化財や美術館の観光資源化を進めています。
三島市では昨年、「箱根八里」が函南町、箱根町や小田原市と共に「日本遺産」に登録され、また国の認定による歴史まちづくり法(略:歴まち法)の指定も受けました。これを契機に市の魅力を発信して行こうと意気込んでいるようです、が…。

現代社会においてネーミングの大事さは論を待たないところです。
名称ひとつで歴史や文化ばかりか、その香りされも彷彿とさせるものです。
「楽寿館」は老人介護施設のイメージ。「小松宮別邸」は宮家の歴史のイメージ。
さあ、市当局はどうされますか…。

 

今回、国の登録有形文化財〈旧小松宮別邸・「桜御殿」〉として答申されました。文化庁では「旧」を付けて、とのことでした。11月に官報に載ることになっています。

 

写真:旧小松宮別邸「桜御殿」2階南面

 

 


2019年7月24日