太田新之介作品集

2015年10月8日
作品-16 茶道具

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 「伊賀細水指」  高さ19  径12.5cm

 

造作余話

先年、伊賀の登龍尾窯で焼いた細型の水指である。

「太田さん、この水指をボクにくれないかなあ。」

「これはちょっと・・・。」

「この手のものがないし、ボクのと交換してくれるといいが・・・。」

「今度の茶事に使いたいので・・良かったら茶事にこられませんか?」

親しくして頂いた陶芸家浅尾憲平氏とこのような問答を交わした一作である。

この水指は、窯から出てきた時に胸がときめいた3点の内の一点であるが、見事な出来栄えだったと思った。

出来栄えといっても焼いてくれたのは陶芸家とそのお仲間の方たちで、私はボデーを作り、後はお任せなので自慢はできないが、茶事における席中の問答は、「お作は?」、であるゆえ、「自作でございます」という分けになる。

薄緑色の解けたビードロの流れは、本格的な薪窯ゆえの力強さと美しさを現し、磁器質のような良質の伊賀土、赤松の薪などを使った故に出現したものといえる。

また、5日間の昼夜焚き続ける焼成技術が高度であることも必須条件である。

にも茶入、茶碗など十数点が出た。何日か伊賀に通ったかいがあった。

HP-120902.JPGこれらの茶道具を使って、どのような茶事を催すかはこの時から決めていた。

高価な道具や家元の箱書き物が無い私には、茶杓と共に焼物などが佳き伴侶となる。

茶事は、気象から始まり歴史、神仏、風習、建築、庭園、書画、美術工芸、陶芸、文学、料理、作法、服飾、音楽ほか、人間の営みのほとんどが催事のかたちで詰まっているもので、日本文化を知るもっとも普遍的な行為といってよい。

若者たちとこの水指を挟んで語り合えるのはこの上ない楽しみといってよい。

細水指は5~10月の風炉の時期に使うとされている。

今年は例年催すことの少ない10月末の「名残の茶事」にお披露目しようと思っている。その他の道具も、割れたものを繕って使える侘びた名残である。

10月は「風炉の名残」、4月は「炉の別れ」、日本人の繊細な季節感の表白といえる。

                                                                                                                                                                                                                   


2015年10月8日