イベント情報

2017年11月13日
月立(つきたち)

月立が転じて「ついたち」になりました。朔月のことで新月の異称です。
新月の頃となる北鎌倉の雪堂美術館では、第10回「雪堂茶会」が行われます。
茶会は毎回三人の席主により催されます。私も席主の一人で参加していますが、回を重ねる度に面白くなっているように思います。
その面白さの元を考えてみると、茶の湯の世界を体現できる楽しさもありますが、何よりも毎回実感するのが小野田雪堂という人物の発見です。

1995年11月、雪堂翁との邂逅は私にとって人生の一大事でした。そして十年の交流は珠玉のような時間でした。
人は出会い、そして別れるのがさだめ。
こうして今年は雪堂翁の十三回忌を迎えました。「光陰矢の如し」といいますが、月日の移ろいの速さは年々増すばかりです。

今ひとつの元は、茶会の道具の第一に挙げる雪堂画賛の掛物、「この今をありがとうございます」です。
これは席主の一人のKNOBさんが、初回から床掛物と推してきたもので、毎回がこの掛物を中心とした道具組となっています。

「この今に感謝します」、という言葉は、万人に通ずる魔法のような愛語で、健やかに暮らす秘訣を教えています。
ですが、考えてみると、日常はこのようなわけには行かず、二人いれば争い、妬み、恨みは常住しているものです。しかし、それでも雪堂翁はこの一言を持ち、人をどこまでも信じ、案じて生ききりました。

茶の湯の面白さと、床掛物のひとこと。
この奥行きと幅の広さに何時もワクワクしている私がいます。
今回の茶会の主役である雪堂翁に薄茶用の茶碗を献じたいと思っています。
千二百万年前に堆積したという泥炭を元にした黒泥で作り、今夏に芝川の佐々木窯で焼成した茶碗です。
銘は「月立」。新月のことです。

「さあ、皆さんで新たな日々を歩む始まりの日にしましょう」。
朔日のムーンパワーをもってKNOBさんの点てるお茶は、きっと美味しいと思います。

私も雪堂翁が晩年に書いたこの書に会いに行くような気がしています。

席主を一緒にされる茶道教授岡山喜代子先生、社中の皆さん、雪堂翁ゆかりの方々の活躍も楽しみです。

 

写真: 黒泥茶碗 銘「月立」自作 2017年

 

 


2017年11月13日