新之介文庫だより
新之介文庫の佐々木です。
発刊から三週間経ちました。お蔭様で各方面の方々からご購読をいただいております。
静岡県内の主な図書館への寄贈も済んだところです。
これから書店を回って取り扱いをお願いすることにしています。何しろ大勢の方にお読みいただきたいと思う一念からです。
今回の感想は、長年出版関係の編集に携わってこられた東京在住の益永さんからで、蝶の研究家としても活躍をされています。
著者とは長い交流があり、建築家太田新之介の理解者のお一人です。本作りに関してもいろいろアドバイスを頂いています。
益永さん、有難うございました。
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『伊勢神宮』 益永 葉
建築家、太田新之介が20年来、追究してきたテーマである「伊勢神宮」に関する考察がこのほどまとまり発刊された。
黒を基調とした装幀は実に美しく、タイトルの上品な銀箔、「神」の一字の紫箔、帯のくっきりとした白文字など、最近の書物でここまで配慮の行き届いた装幀を私は知らない。
小口や天までが黒く染められた特装版では、そのこだわりは徹底している。その重厚な印象が手にもってみると一瞬でかわる。「軽い」のだ。
私は最近の書物に使われている紙は重すぎると常々、考えている。戦前の昭和前期頃の本のなかには、非常に軽い本が多い。これはおそらく和紙で綴じられた和本の影響で、洋紙にも軽快さが求められたせいかもしれない。
こんな風にいきなり装幀から感想から述べたのでは、著者も面食らうかもしれないが。
肝心の内容についての感想をもとめられても、正直、たいしたことが言える自信がない。
たしかに伊勢神宮はほとんどの日本人なら一度は参拝し、またその建築については唯一神明造と呼ばれる、その形が古代から20年ごとの遷宮によって正確に受け継がれていること、昭和初期にブルーノ・タウトが来日し「日本のアクロポリス」としてその建築美を賞賛したことなど、ひととおりの「常識」は備えているわけであるから、話題としては著者の話についていくことは出来る筈であるが、一読、これがなかなかそう簡単にはいかない。
著者はまず伊勢神宮に対する世間の「常識」について徹底的に疑い、多くの疑問点を提出する。
曰く「天皇家の祖神にもかかわらず、持統天皇以来明治天皇まで一人の天皇も参らなかった訳?」
「そもそもなぜ神鏡は皇居ではなく伊勢の辺鄙な地に置かれたのか?」
「内宮と外宮の関係は中世以来多くの訴訟合戦が行われているが実は敵対関係にあったのでは?」
「唯一神明造は最初からその形を整えていたのか?」
「そもそも伊勢の地にあって、川の氾濫が予想される現在地とは別の高台に当初の神宮はあったのでは?」
読後に思いつくだけも次々と疑問が提出され、伊藤忠太から太田博太郎、川添登らの原本を読んだこともなく、その俗化した説を紹介する教科書や簡易本で育ち、登呂から三内丸山まで復元された遺跡を漠然と古代の姿と思っていた私などには目のくらむような内容となっている。
この書物は伊勢神宮やそれをとりまく事柄の古代から明治期にいたる建築史上の疑問を現代の木造建築の第一人者である著者が学者とは別な視点で解き明かす、一流のミステリーを読んでゆくような本である。
実は著者はこれらの秘密、疑問を解き明かすのに「飛騨の口碑」というキーを提出し多くの疑問がそれで説明できるとする。
天皇家の源流を飛騨に求めるという、記紀の世界に親しんだものとしては、斬新な資料を介して読み解く伊勢の歴史は、従来の課題を次々と、解き明かす。
たしかにその切れ味は快刀乱麻と言ってよいが、 「アカデミズム」にどっぷりと染まった世代の私としては「古事記」「日本書紀」の記述の切り捨てや、新しい文献の採用に伴う手続きに疑問を感じない訳にはいかない。
ただ、ある仮説を導入することで、今まで見えてこなかったものが見えてくることは理解できるし、もしかするとそのために得られた知見は仮説を取り外してもでも成立するのかなと漠然と思った。
この書が世間でどのような評価を受けるのか、初期の読者としては今後が楽しみな一書である。
PS:最後に一言苦言(?)。最初期の神宮の想像図がどうしてもウチの近所の八幡様と変らないように見えるのは、先生、なんとかならないでしょうか?
学問的には正しいのでしょうが、ショックです。せめて大相撲の土俵の屋根くらいになりませんか?(どこかの地方自治体の担当者みたいな物言いですいません)
(ますなが よう ・編集プロデューサー・蝶研究家)
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(イラスト 内宮正殿の想像図 太田新之介画)
他にお寄せいただいた感想文を次回に掲載させていただきます。
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