新之介文庫だより

2017年6月25日
東南アジアの古陶磁考-1

はじめに

1998年から2000年にかけて四度タイに渡航した。
主たる目的は、タイ北西部のタノントンチャイ山脈から出土するやきものに会うためだ。子供の頃からやきものに興味を持ち、この頃、茶事をするようになって自分でも作陶をするようになっていた。

仕事柄、文様に関心が高く、古代の文物や絵画から行き着いた先が中国元の染付磁器に描かれた文様だった。建築彫刻における龍や鳳凰などの絵画的原点がそこにあった。
そして縁あって元の染付が出土するというタイの山奥へ。
出土するものは想像を超え、目を疑うものばかり。しかし、眼前には優れたとしか言えない美術品が・・・。

故あって先年、『東南アジアに渡った・元明のやきもの』(2003年里文出版刊)を上梓した。
また再び出土品を分類整理し、その真とするところを記して、世に出すことになった。このシリーズは、私のやきもの遍歴ということになりそうだ。

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001 謎の山脈
タイ北西部にタイとミャンマーの国境を隔てるタノントンチャイ山脈がある。
この数百キロに及ぶ峰々の高度1200~1500メートルの南斜面から10~18世紀の古陶磁器類が出土している。

その出土数は想像を超えるもので、1980年頃から2010年までに十数万点を超えているといわれていた。
特にチェンマイ県オムコイやターク県メソート近傍から発掘された陶磁器は、カンボジアの11~12世紀、ミャンマーの14~16世紀、ベトナムの13~18世紀、中国の6~18世紀のものが出土した。

またもうひとつの出土場所は、朽ちて跡が見えなくなった遺跡で、パゴダ基壇下より出土する陶磁器である。
タノントンチャイ山脈に近いミャンマー領やチェンマイ、チェンラーイ近郊に遺るパゴダ基壇下から出土される陶磁器も、中国の宋代磁州窯や元の染付から明末清初のものまであり、中国陶磁史上でも重要な位置を占めることになると思われる。

出土品の状態は、約三割が発掘時に破損し、完品で出土してもオムコイ、メソートから出土する陶磁器は赤土から発掘されるため、土の有機物が器体に侵入し、土臭を持つ。

一方、パゴダ基壇下のものはレンガ下の砂質土に埋められているため、陶磁器類の風化や劣化が少なく、洗浄を施せば新品と思えるようなものもある。

これらの発掘はタノントンチャイ山脈中腹に居住する山岳少数民族である。
彼らは陶磁器類がどの場所から出土するのかを熟知していて、ほとんど空堀はないという。またパゴダ基壇下はすでに朽ちて崩壊しているため、見過ごすような場所であるが、彼らはまたその位置を特定できるという。(続く)

 

 

写真:オムコイ山中の発掘現場 1998年

 

 


2017年6月25日